生体活性イオンを徐放するガラスナノ微粒子を用いて,歯の表面をコーティングする新しい技術を歯科治療,特に歯周病やむし歯に応用する研究を行っています.写真は抗菌性を持つフッ素やホウ素等のイオンを徐放する,S-PRGナノフィラーで歯の表面を均一にコーティングしたものです.
写真:象牙質の表面の電子顕微鏡像.左弱拡大,右強拡大.表面の白い微粒子がS-PRGナノフィラー.規則的な穴は象牙細管.S-PRGナノフィラーはきれいに歯に付着し,一部のS-PRGナノフィラーは象牙細管内に入り込んでいた.
S-PRGナノフィラーでコーティングした歯面に,むし歯菌(ミュータンス菌)を播種培養しても,菌は育ちませんでした.未処理の歯面ではミュータンス菌のバイオフィルムが形成されました(写真).また,歯周病関連菌の一つであるネスランダイ菌を用いた場合でも同じく抗菌効果を認めました.歯に付着したS-PRGナノフィラーから抗菌イオンが放出され,菌の増殖を抑制したと考えられました.
動物の歯周病に,S-PRGナノフィラーを用いた治療を行いました(歯周ポケット注入タイプ).未治療(左)では2週後も歯肉は赤く出血しており,歯周ポケットも深いままで炎症を起こしていました.S-PRGナノフィラー治療をすると(右),2週後には歯肉の赤みが取れ,出血もなく,歯周ポケットも浅くなり,治癒していました.S-PRGナノフィラーの抗菌性が臨床でも効くことが示されました.Heliyon 2021 に掲載.
新しい簡便なS-PRGナノフィラーを使う方法として,超音波スケーラーの注水にS-PRGナノフィラー水を使用して歯の表面のコーティングを試みました.容易に象牙質,セメント質の表面をS-PRGナノフィラーでコーティングすることができました.
そこで動物の歯周病に,治療用器具の超音波スケーラーとS-PRGナノフィラー水を組み合わせた治療を行いました.普通の水で洗った場合(上段)に比較して,S-PRGナノフィラー水で洗った場合は1か月後には治癒し,その後歯ブラシしなくても健康な状態が3か月間持続しました.歯に付着したS-PRGナノフィラーが長期的に抗菌イオンを放出して歯周病を抑え込んだと考えられます.歯を洗うだけの非常に簡便でかつ効果的な歯周病治療法として開発を進めています.J Oral Biosci 2022 に掲載.
亜鉛イオンを徐放するガラスナノ粒子で,歯の表面をコーティング処理し,抗菌評価を行いました.コーティングによってネスランダイ菌の増殖を抑制しました(左コントロール,右ナノ粒子コーティング).亜鉛イオンも効果的に菌を抑制することが示されました.Dental Materials Journal 2021 に掲載.
北大病院の患者を対象に,フッ素イオンを徐放する市販のガラスナノ粒子材料を用いた臨床研究を行いました.根面う蝕にガラスナノ粒子を塗布し,6か月間の根面う蝕の進み方を調査しました.ガラスナノ粒子材料は,根面う蝕の進行を抑制しました.フッ素が徐放されて,歯質が強化されたと考えられました.Dental Materials Journal 2020 に掲載.
H Miyaji, K Mayumi, Y Kanemoto, I Okamoto, A Hamamoto, A Kato, T Sugaya, T Akasaka, S Tanaka. Ultrasonic irrigation of periodontal pocket with surface pre-reacted glass-ionomer (S-PRG) nanofiller dispersion improves periodontal parameters in beagle dogs. J Oral Biosci, 64(2), 222-228, 2022.
https://doi.org/10.1016/j.job.2022.02.006
K Mayumi, H Miyaji, S Miyata, E Nishida, T Furihata, Y Kanemoto, T Sugaya, T Akasaka. Antibacterial coating of tooth surface with ion-releasing pre-reacted glass-ionomer (S-PRG) nanofillers. Heliyon, 7(2), e06147, 2021.
https://doi.org/10.1016/j.heliyon.2021.e06147
E Nishida, H Miyaji, K Shitomi, T Sugaya, T Akasaka. Evaluation of antibacterial and cytocompatible properties of multiple-ion releasing zinc-fluoride glass nanoparticles. Dent Mater J, 40(1), 157-164, 2021.
https://doi.org/10.4012/dmj.2019-176
H Miyaji, K Mayumi, S Miyata, E Nishida, K Shitomi, A Hamamoto, S Tanaka, T Akasaka. Comparative biological assessments of endodontic root canal sealer containing surface pre-reacted glass-ionomer (S-PRG) filler or silica filler. Dent Mater J, 39(2), 287-294, 2020.
https://doi.org/10.4012/dmj.2019-029
H Miyaji, A Kato, S Tanaka. Suppression of root caries progression by application of Nanoseal: a single-blind randomized clinical trial. Dent Mater J, 39(3), 444-448, 2020. https://doi.org/10.4012/dmj.2019-038