消化器がん患者で口腔疾患の集積を確認~むし歯経験はOral-GI Axisの新たな手がかりとなるか〜
- 2026年度
- 報道・プレスリリース

ポイント
- 消化器がん患者218名を対象に口腔内状態を解析。
- 全国平均を上回るむし歯経験(DMFT指数)と高頻度の歯周病・根尖性歯周炎を確認。
- 口腔と消化器がんを結ぶ「Oral-GI Axis」における、むし歯経験の重要性を提示。
概要
北海道大学病院むし歯科(歯学院歯科保存学教室)の川本千春助教と医学研究院消化器内科学教室の坂本直哉教授らの研究グループは、2015年から2025年までに北海道大学病院で周術期口腔管理を受けた消化器がん患者218名を対象として、口腔内状態を後ろ向きに解析しました。
近年、口腔内環境と消化器がんとの関連が注目されていますが、これまでの研究の多くは歯周病を中心に検討されてきました。一方で、むし歯や根尖性歯周炎を含めた包括的な口腔環境と消化器がんとの関連性を評価した研究は限られていました。
本研究では、むし歯経験を示すDMFT指数、歯周ポケットの深さ、根尖性歯周炎の有無を評価し、全国歯科疾患実態調査のデータと比較しました。その結果、消化器がん患者では多くの年齢層でDMFT指数が全国平均を上回り、歯周病及び根尖性歯周炎も高頻度に認められました。
これらの結果は、消化器がん患者において複数の口腔疾患が集積している可能性を示しています。特にDMFT指数は、生涯にわたるむし歯経験や口腔疾患負担を反映する指標であることから、本研究は、口腔と消化器がんとの関連を考える上で、歯周病だけでなくむし歯経験にも着目する重要性を示したものと捉えられます。
なお、本研究成果は、2026年6月14日(日)公開のCancers(DOI:https://doi.org/10.3390/cancers18121941)にオンライン掲載されました。

背景
近年、口腔内環境と全身疾患との関連が注目されており、特に歯周病と消化器がんとの関係について多くの研究が報告されています。大腸がん組織から歯周病関連細菌が検出されるなど、口腔と消化器を結ぶ「Oral-GI Axis(口腔-消化器軸)」という考え方も提唱されています。
一方、口腔疾患には歯周病だけでなく、むし歯や根尖性歯周炎なども含まれます。しかし、これらを含めた包括的な口腔疾患と消化器がんとの関連性を評価した研究は限られていました。また、DMFT指数は、現在のむし歯の有無だけでなく、過去のむし歯治療や歯の喪失を含めた生涯にわたるむし歯経験や口腔疾患負担を反映する指標として広く用いられています。
研究手法
本研究は北海道大学病院生命科学・医学研究倫理審査委員会の承認のもと実施しました(承認番号:021-0216)。北海道大学病院で2015年4月から2025年3月までの間に周術期口腔機能管理を受けた消化器がん患者218名を対象としました。対象者の口腔内診査結果及びパノラマエックス線画像を用いて、DMFT指数、歯周病の進行度、根尖性歯周炎の有無を評価しました。さらに、DMFT指数及び歯周病の状態については、厚生労働省「歯科疾患実態調査」の年齢別データと比較しました。
研究成果
消化器がん患者では、25歳以上のほぼ全ての年齢層でDMFT指数が全国平均を上回り、有意に高い値を示しました。また、歯周ポケット(4 mm以上及び6 mm以上)の保有率も全国平均より高く、根尖性歯周炎は全体の46.3%に認められました。これらの結果から、消化器がん患者ではむし歯経験、歯周病、根尖性歯周炎が併存する「口腔疾患の集積」が高頻度で認められることが明らかになりました。さらに、本研究は、これまで歯周病を中心に議論されてきたOral-GI Axisにおいて、むし歯経験という新たな視点の応用可能性を示しました。
今後への期待
本研究は、消化器がん患者において口腔疾患の集積が認められることを示した探索的研究です。一方で、本研究のみから口腔疾患と消化器がんとの因果関係を示すことはできません。今後は、多施設共同研究や前向き研究、口腔及び腸内細菌叢の解析などを通じて、口腔環境と消化器がんとの関係をさらに明確にしていく必要があります。しかしながら、本研究成果は口腔の健康が全身の健康と密接に関わる可能性を示すものであることから、歯周病だけでなく、むし歯を含めた包括的な口腔管理の重要性を、世の中に広く啓発しうるものとして捉えられます。
謝辞
本研究は秋山記念生命科学振興財団(2024-4)の助成を受けたものです。
論文情報
論文名 Comprehensive Evaluation of Oral Diseases in Patients with Gastrointestinal Cancers: Epidemiological Evidence from a 10-Year Retrospective Study
(消化器がん患者における口腔疾患の包括的評価:10年間の後ろ向き研究から得られた疫学的知見)
著者名 Chiharu Kawamoto1、Hirofumi Kaneko2、Ryotaro Yago1、Yudai Matsuo2、Yuto Nakamura3、Shuhei Hoshika1、Takuma Mirokuin3、Hidehiko Sano2、Atsushi Tomokiyo2、Naoya Sakamoto4
(1北海道大学病院、2歯学研究院、3歯学院、4医学研究院)
雑誌名 Cancers(癌研究の専門誌)
DOI https://doi.org/10.3390/cancers18121941
公表日 日本時間2026年6月14日(日)(オンライン公開)
お問い合わせ
本ページ掲載の内容に関するお問い合わせ先
chipa□den.hokudai.ac.jp
※□をアットマークに変換し送信してください