口腔診断内科北海道大学大学院歯学研究科
口腔診断内科学教室教授
宮本郁也

当教室は、国立大学として初めて口腔内科を標榜しました。
その歴史は、1967年の北海道大学歯学部の創設時に発足した初代富田喜内教授(1967-1985)の口腔外科学講座に遡ります。2代目、福田博教授(1985-2003)在職中の2000年に大学院重点化に伴い、講座名を北海道大学大学院歯学研究科口腔病態学講座口腔診断学・口腔内科学分野に変更しました。
3代目の北川善政教授(2004-2024)在職中の2017年から大学院の研究院・学院化に伴って、現在の名称である北海道大学大学院歯学研究院口腔病態学分野・口腔診断内科学教室となりました。2024年より宮本郁也が4代目教授を拝命しています。
診断学や内科学の教科書によりますと、診断学とは、患者さんをどのように対処すべきかを知るための病的状態の知的な分類作業であり、内科学とは疾病の本態と原因を明らかにし、疾病を発見し、対処して、患者の社会生活を可能な限りに健康的に維持するための臨床科学です。
また、口腔内科学会によりますと口腔内科とは、口腔に限局した疾患の他に全身疾患の口腔症状について診断し、外科的なアプローチ(手術)をとらずに口腔疾患の治療を担当する分野です。さらに全身的な疾患を持っている患者さんの歯科治療も担当します。このように口腔だけではなく全身状態を評価したうえで口腔病変の診断や治療を行います。診断学や内科学的な方法論を用いて口腔疾患に対処する臨床歯科医学が、口腔診断学および口腔内科学です。
歯科は、外科的な思考が強い学問です。歯を削ったり抜いたりすることで、疾患の治癒を目指すことが多く、歯学教育は、技術的な訓練に多くの時間を割いています。しかし、診断学や内科学は「論理的な思考」が重要であり、これまでの歯学教育では、その側面が軽視されてきたと言えます。
口腔疾患の中には外科的な治療だけでは、治癒しない場合があります。また、社会の高齢化や医療の高度化に伴って、歯科領域の疾病構造も変化しています。重篤な慢性疾患を抱えた患者さんが、長期間生活することが可能となり、このような方も歯科を受診します。さらに、歯科とは直接関係のない病気が原因で口腔の症状を訴える方も少なくありません。このような複雑な疾患に対応するため、歯や口腔だけでなく全身各部の評価を行い、口腔全体の病変に対応する必要があります。歯科医師は、従来の外科的な手技に加えて、診断学や内科学的な視点を持ち、全身的な健康を考慮した総合的な治療を提供することが必要です。
北海道大学歯学部では、4年次の学生に口腔診断内科学の授業で口腔病変の診察と、その原因究明を行う診断学および内科学的思考法の基礎を教授しています。教室員には、全身の健康を理解し、人間性豊かで質の高い臨床能力を備えた、優れた臨床医および医療人となるよう指導しています。
臨床においても、診断学的および内科学的な論理的思考法を歯学の体系に組み込み、医科をはじめとした多職種と連携し、全人的な視野に立って口腔の健康増進に努めています。口腔に関連するあらゆる疾患を診断・治療の対象とし、医学的知識と論理に基づいた診断を行い、早期発見による最小限の外科的手術や器官温存を目指した内科的治療を心掛けています。口腔外科的手術や内科的投薬治療など多様な方法を駆使して口腔疾患に対処しています。
当教室は、日本口腔外科学会を主たる学会として、日本口腔内科学会、日本口腔科学会、日本顎関節学会、日本顎顔面インプラント学会など様々な専門医、指導医が多数在籍しており、質の高い医療を提供すべく、日々尽力しています。
さらに、臨床的な知見を基に基礎研究および臨床研究を積み重ね、新たに発見された知見を臨床に応用し、新しい医療技術や医薬品として実用化することを目指した研究にも積極的に取り組んでいます。