鑑別の苦慮した悪性リンパ腫の1例

(顎骨骨髄炎との診断に苦慮した悪性リンパ腫の1例)

Challenging differentiation of oral malignant lymphoma from osteomyelitis of the jawbone: A case report

Abstract 日本語要約

【緒言】

頭頸部の悪性リンパ腫(malignant lymphoma)は頸部リンパ節やWaldeyer咽頭輪に高頻度で発生することが知られている.顎口腔領域に発生する悪性リンパ腫は,頻度は少ないものの,節外性に生じたものは炎症や他の腫瘍に類似した病態を示すことから,診断に苦慮することが多い.今回,頬部腫脹を主訴に来院し,下顎骨骨髄炎との診断に苦慮した悪性リンパ腫の1例を経験したので報告する。

【症例と経過】

患者は59歳,女性.左頬部腫脹および骨髄炎精査依頼にて当科初診となった.XPおよび造影CTでは,左下6根尖部透過像と左下顎骨体部の硬化性変化を認め,左下顎枝周囲組織の腫脹を伴い,慢性歯性下顎骨骨髄炎が疑われたが,下歯槽神経麻痺は認めなかった.MRIでは左下顎骨にT1低信号T2軽度高信号を認め,下顎骨頬側の軟組織肥厚を伴い,慢性下顎骨骨髄炎を指摘された.根尖病巣を認めた左下6抜歯および周囲からの生検では慢性骨髄炎の病理組織診断を得た.抜歯窩は早期に上皮化したが,腫脹の改善を認めないことから再度生検を試みたものの,炎症所見を認めるのみであった.血液検査でもsIL-2Rを含め異常は認めず,腫瘍等の鑑別目的の骨シンチグラフィ,FDG-PETでも左下顎骨ならび周囲組織に限局した集積を認めるのみであり,同様の診断であった.初診から約半年後,腫脹の増悪と左下顎口腔前庭に硬結を触知し,左顔面神経麻痺を生じたため3度目の生検を実施したところ,Diffuse large B-cell lymphomaの診断を得た.その後,血液内科にてR-CHOP療法6コースが実施され,軟組織肥厚ならびに頬部腫脹は消失し,寛解となった.現在経過観察中であるが,再発は認めていない.

【結語】

本症例では左下6根尖性歯周炎由来の慢性下顎骨骨髄炎と下顎骨周囲の節外性悪性リンパ腫が併発したことが診断に難渋した一因と考えられた.さらに,悪性リンパ腫の生検時には確定診断が困難な場合もあり,非定型的であり難治性の頬部腫脹に対して悪性リンパ腫を念頭におく必要があると考えられた