研究概要
カーボンナノチューブ(CNTs),カーボンナノホーン(CNHs) ,カーボンナノドット(CNDs),グラフェン等のカーボンナノ物質 (CNMs)は炭素のみからなる新素材であり,物理的特性および化学的安定性から医学歯学領域を含むバイオ領域において基礎研究が開始されている.本研究グループでは,CNMsの特徴を生かして骨再生やインプラント治療に応用することを目的とし,下記のテーマで研究を行っている.
研究テーマ
1.CNMsとマクロファージを介した骨再生の解明とインプラント体表面修飾への応用
- ナノマテリアルはマクロファージに貪食されやすく,免疫調節が可能であることが報告されている.マクロファージは炎症性のM1マクロファージと抗炎症性のM2マクロファージに分極し,M2マクロファージが骨再生を誘導することが知られている.本研究グループは,2011年よりフランスCNRSとのCNMsとマクロファージの反応を分析し,CNMsのサイズや化学修飾によってマクロファージが異なる挙動を示すことを明らかにしてきた.本研究では,これを用いてCNMsが骨再生を促進するメカニズムを解明するとともに,マクロファージの分極を制御するためのCNMsの最適化を行う.その上で,インプラント体の表面修飾を行い,オッセオインテグレーションを促進するインプラントを開発する.
2.インプラント周囲炎に対する光応答性CNHsの開発
- インプラント治療は予知性ならびに効果の高い治療である一方で,インプラント周囲炎は,臨床における大きな問題となっている.しかしながら,インプラント周囲炎の治療法は十分には確立されていないのが現状である.近赤外光は生体の窓と呼ばれ,組織透過性が高いことが知られている.そこで,下記のような近赤外光で殺菌作用を発現・増強するCNHs複合体を開発し,インプラント周囲炎への応用を目指している。
- CNHsに光増感剤π拡張型ポルフィリン分子 (rTPA)を修飾し,近赤外光を照射すると一重項酸素(1O2)を発生させることによって抗菌作用を持つrTPA-CNHs
- 抗菌薬であるミノサイクリン(MC)と複合し,近赤外光照射によって徐放し抗菌作用が増強されるMC/CNHs.
3.CNDsを用いた骨再生のためのコンビネーションプロダクトの開発
- カーボンドット(CD)はCNMsの中でも,可溶性,生体適合性に優れ,光反応性を有する.CDへの薬剤担持と光照射による放出制御により感染制御と骨形成という2つの異なる問題を解決する.
4.膜化CNTsの骨再生誘導法(GBR法)への応用
- 本研究では,高強度で骨形成を促進するCNT膜を開発し骨再生誘導法(GBR法)用の膜への応用を検討している.CNT膜は表面にナノ構造を持ち,高強度で骨芽細胞の増殖は促進し,線維芽細胞の増殖は抑制した.ラット実験では,CNT膜で覆った骨欠損部に顕著な骨形成が見られ膜周囲へのCNT拡散はほとんどみられなかった.これらの結果から,CNT膜には骨形成を促進する効果があることが明らかになった.さらなる動物実験で安全性が実証されれば,CNT膜のGBRへの臨床応用が期待できる.