研究概要
近年、顎口腔機能異常を訴えて来院する患者の数は増加の一途をたどっている。 こうした患者の中には、顎口腔系の不調和のほかに、全身にわたる多種多様な随伴症状や疲労感、 精神的なストレスの徴候を有する症例が多く見受けられる。 なかでも頸部、肩部および腰部の疼痛や凝りは最も頻度の高い症状である。 さらに、こうした患者には全身姿勢の不良を呈する者もしばしば認められる。 このような患者に対して、顎口腔機能の改善を主たる目的とした歯科治療と理学療法を併用して行った結果、 全身症状の軽減と全身姿勢の改善が同時にみられたという症例報告がなされている。 これらの報告は、顎口腔系の変化、顎口腔機能異常患者に伴う全身症状、 全身姿勢の間に何らかの関連性が存在する可能性を示唆するものである。 しかしながら、未だ科学的実証に基づいた臨床的研究により客観的かつ定量的に明示されるまでには至っていないのが現状である。 そこで本研究の目的は、これら3つの関連性を明らかにするとともに、さらに、 頸肩部から背部にかけての凝りや疼痛をはじめ、全身にわたる多種多様な随伴症状や精神的なストレスの徴候を 有する顎口腔機能異常者の診査・診断・治療体系の構築にある。
研究テーマ
1.下顎位、頭位および全身姿勢の相互関係の解明


「全身におけるどのような変化が顎口腔機能異常者に随伴する多種多様な徴候や症状に影響を与えるのか」 ということの理解を深めるためのひとつには、顎口腔系の変化が全身姿勢に及ぼす影響と全身姿勢の変化が 顎口腔系に与える影響の双方から調べた定量的研究が必要である。そこでまずは、 下顎位と全身姿勢の相互関係の解明を目的として、下顎位の変化が全身姿勢に与える影響と全身姿勢の変化が 下顎位に与える影響の双方からの検討を行っている。
「また、近年、ある種の咬合異常および咬合変化が全身の不定愁訴を誘引すると言われており、 その誘因のひとつは、咬合の機能異常が頭頸部の筋群を介して、 頭位や全身の姿勢に影響を及ぼすためであると報告されている。 そこで次に、下顎位、頭位および全身姿勢の3次元・同時・リアルタイム計測を行い、 これらの関連性の検索を行う予定である。
2.咀嚼運動、頭位および全身姿勢の相互関係の解明
顎口腔系機能のひとつで機能運動である咀嚼運動には、下顎運動に随伴した頭部運動が存在することが報告されている。 この頭部の協調運動をともなう咀嚼運動が、体幹のバランスにどのような影響を及ぼすかを検討することは、 顎口腔系機能と全身との関連を知る意味で有意義である。そこで、咀嚼運動、頭位および全身姿勢の関連性を検索する予定である。 1.2.いずれのテーマにおいても、正常者と顎口腔機能異常者のデータの比較検討を行い、顎口腔機能異常者にみられる特徴を明らかにすることで、 頸肩部から背部にかけての凝りや疼痛をはじめ、多種多様な全身随伴症状をともない、 明らかな下顎偏位により姿勢のバランスが崩れている顎口腔機能異常者の診査・診断・治療体系構築の助けとする。
計測システム

全身姿勢の計測:足底の荷重中心と荷重分布の経時的変化を時系列ムービーデータとして記録・解析できる足底圧分布測定システム (MatScan systemR)と光学式3次元多点時系列システム

下顎位の計測:咬合圧重心と咬合接触圧分布の経時的変化を時系列ムービーデータとして記録・ 解析できる咬合接触圧分布測定システム(T-Scan II systemR)

頭位および咀嚼運動の計測:光学式3次元多点時系列システム