北海道大学歯学部口腔診断内科
北海道大学歯学部
口腔診断内科

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PET CT

はじめに

2002 年フルオロデオキシグルコース(FDG)を用いるPET検査の健康保健適用が認められ約12年が経過しましたが、その間にFDG-PET検査が飛躍的に全国に普及してきました。また本年には、FDGのデリバリーが保険適応になりサイクロトロン施設なしでもFDGの供給体制が整ったことから、今後検査はさらに増加すると見込まれています。私共は1994年より口腔悪性腫瘍のPET研究を行ってきました。

PETにより従来の形態診断では得られないブドウ糖の代謝活性(viability)を反映する全身の機能画像が得られ、腫瘍の存在診断、病期分類、治療効果判定、再発の早期診断など臨床上多くの有益な情報が得られています。

ここでは、放射線併用動注化学療法(ケモラジ)をPETで評価し、低侵襲手術により実際に口腔機能や器官温存が可能になってきていますので臨床例を紹介し、PETの有用性についてまとめてみたいと思います。

図1 口底癌 治療前
口底癌 治療前
図2 口底癌 治療前: 機能画像(PET)と形態画像(MR)が一致
口底癌 治療前
FDG-PET画像の腫瘍検出率を他の画像と比較しました。治療前のPET では、全例原発巣に一致した部位にFDGの異常集積を示しました。PETのsensitivity 100%に対し、MR(78%)、CT(68%)では低い値でした。比較的大きい腫瘍では機能画像のPET と形態を反映するmodality のCT やMR 画像とが完全に一致していました(図1, 2)。しかし、早期癌や浸潤性の乏しい表在性の腫瘍などCTやMRでは存在範囲が不明瞭な場合や検出不能で偽陰性を呈した症例でもPETでは明瞭なFDGの集積として描出されました。また、CT、MRではアーチファクトのため病変部の描出がしばしば困難になることを経験しますが、FDG-PETではこの影響はほとんどありません。

ケモラジ後の画像評価

ケモラジ後の画像比較では、CT、MR 画像では瘢痕、肉芽組織は残存腫瘍と区別できず、specificity はCT(58.8 %)、MR(41.2%)で低値でしたが、PET(89.5%)では瘢痕肉芽組織と残存腫瘍を正確に識別可能(図3, 4)で、術前の適切な治療方針決定に有用であることを示しています。

図3 口底癌 ケモラジ後: 腫瘍は肉眼的にも組織学的にも消失
口底癌 ケモラジ後
図4 口底癌 ケモラジ前後: MRではケモラジ後の肉芽組織、瘢痕組織と残存腫瘍を区別できないが、PETではFDGの集積をみとめず正確に評価可能(pathological CR)
口底癌 ケモラジ前後

リンパ節転移巣の検出

頸部リンパ節転移の有無は治療や予後を左右する重要な因子です。現在のところ10mm以上のリンパ節はPETで正確な診断が可能になってきました。10mm以下の小さい病変は部分容積効果(partial volume effect)によりFDGの集積が過小評価されるため、診断には限界があります。転移陽性頸部リンパ節の40%は10mm以下であるという病理組織学的研究報告や、初診時に従来の診断でN0(リンパ節転移なし)と診断された症例の20-30%がsubclinicalにリンパ節陽性(occult リンパ節)との報告もあり、しばしば予防的頸部郭清術が選択されてきました。今後PETの診断能の向上により正確なリンパ節の評価ができるようになれば、無駄な頸部郭清術を回避し、適切な治療法、正確な予後の評価が可能になると期待されます。

その他、当科では、
・PET による治療モニタリング
・治療前PET からの治療効果の予測
・治療後PET からの残存腫瘍の評価
・PET 診断に基づいた縮小手術と予後の予測
・MET-PET、FMISO-PETを用いた研究


を行っております。