北海道大学歯学部口腔診断内科
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口腔診断内科

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唾液腺疾患

唾液腺疾患

唾液腺は局所的にも、また全身的にも多くの生理的働きをもちます。とくに、口腔内環境および口腔機能を維持するうえに重要な役割を果たしています。唾液分泌異常を生じる種々の唾液腺疾患は口腔内環境に大きな影響を及ぼし、咀嚼および構音など口腔機能に及ぼす影響は大きいといえます。また、齲蝕症、歯周疾患、口腔粘膜疾患、さらに床義歯の安定、味覚、口臭などとも深い関係があります。唾液腺疾患は局所的原因により発現するものもあるが、精神面をも含めた全身と関連して発現することもあります。

唾液腺貯留瘻胞

唾液の流出障害により生じる嚢胞で、粘膜下の小唾液腺部に生じます(mucocele、粘液瘤、粘液嚢胞)ことが多くみられます。とくに、下唇口角部粘膜に好発するほか、舌下面(Blandin and Nuhn'sglands)、ロ底、頬粘膜にも発症します。また、舌下腺または顎下腺の導管に由来し、ロ底部に生じた大きな嚢胞は、その外観がガマの喉頭嚢に似ていることからガマ腫ranulaとよばれています。まれに顎下部、側頭部にも腫脹をみることもあります。

成因はいろいろいわれていますが、外傷あるいは炎症による導管ないし腺房の損傷によって周囲の組織中に唾液が溢出し、この流出した唾液成分を囲んで肉芽組織が増殖し、これが線維化して嚢胞壁を形成するものと考えられています(mucus exteravasation cyst)。したがって、この嚢胞壁には上皮細胞のないものが多いといえます。また。立方上皮細胞あるいは扁平上皮細胞よりなる嚢胞壁をもつものもあり、唾液の排出障害のため導管の一部が拡張し、 嚢胞化したものと考えられています(mucus retention cyst)。

臨床所見

1)粘液瘤: 下唇粘膜面などに無痛性の半球状に盛り上った波動性のある軟らかい膨隆として認められ、典型的なものでは青味がかった半透明な色調を呈します。咬傷などの機械的刺激により粘膜表面が角化し、白色化していることも多いです。内容は無色透明な粘稠な液体です。

2)ガマ腫: 舌下ヒダの部分が片側性に半球状に膨隆します。被覆粘膜は正常ですが、内容液が透けて青味がかった半透明色を呈します。顎舌骨筋の上にあるのが一般的ですが、ときには顎下部や頸部にも及んでいることもあります。内容液は黄褐色の粘稠な液体です。
処置としては粘液瘤の場合は原因となっている腺を含めて全摘出します。ガマ腫では舌下腺を含めた全摘出も行われますが、開窓法が多く行われます。

唾石症およびmucous plug

唾液腺導管内に結石の生じる疾患です。顎下腺の主導管(ワルトン管)内および腺体内導管に生じますことがもっとも多く、耳下腺、舌下腺に生じることは稀です。大きさや数は様々で、帯黄灰白色あるいは黄色の場合が多く、表面は粗造です。

唾液腺炎

・非特異性炎
多くは口腔内に常在する非特異性細菌による唾液腺管開口部からの上行性感染です。

1)臨床症状
 臨床経過は次の3つに大別できます。

 1. 初感染から急性の経過をとる場合(急性化膿性唾液腺炎): 唾液腺部の自発痛を伴う発赤、腫脹、所属リンパ節の腫脹・圧痛、全身の発熱、倦怠感などを生じ、唾液腺管開口部から排膿がみられることもあります。経過から化膿性唾液腺炎は初めてで、症状消退後の唾影像では、一般に異常は認められません。しかし、このような経過をとる症例は少ないといえます。

 2. 慢性の経過をとり、全身状態の低下などにより急性化を繰り返す場合(慢性非特異性唾液腺炎): 急性化期には1.と同様の臨床症状を呈し、一般には急性化膿性唾液腺炎と診断されますが、本来は慢性炎の急性化と理解すべきです。過去に何度か唾液腺炎の既往があり、唾影像では、導管の拡張、腺系像の斑紋化など著明な変性像が認められます。
 なお、3~10歳ぐらいの小児に発現し、急性化膿性唾液腺炎症状を年に何度か繰り返し、唾影像では腺体部にたくさんの小円形陰影がみられ、一般に思春期までには症状がみられなくなるという特徴のある臨床経過をとる唾液腺炎があります。これは従来から小児慢性再発性耳下腺炎とよばれ、顎下腺でも耳下腺と同様の臨床症状、唾影像所見がみられます。

 3. まったく無症状に経過し、口腔乾燥、唾液腺の硬結などにより発見される場合: 中高年齢者に発見されることが多く、過去に唾液腺炎の症状がほとんどなく経過し、口腔乾燥あるいは唾液腺の硬結などに気づいて来院したところ、唾影像により導管の著明な拡張、腺系像の斑紋化などの唾液腺の変性と、唾液分泌能の低下などの異常所見を認められたケースもあります。
 なお、特殊なものとして片側の顎下腺が数カ月から数年の経過で徐々に無痛性に腫脹し、硬化してくるものがあり、 Kuttner's tumorとよばれます。病理組織学的には腺組織の萎縮消失、線推の増生および線維内に散在する巣状の炎症性細胞浸潤がみられ、慢性硬化性唾液腺炎と診断されます。

2) 治療

 急性期には十分な安静と栄養に留意するとともに、抗生剤を中心とする化学療法を行います。非特異性唾液腺炎患者の多くは、基盤に、唾液分泌低下を伴うことが多く、このことが上行性感染の機会を与えるとも考えられ、レモンなどによる分泌刺激療法を行うとともに、唾液分泌の抑制を生じる原因として、常用薬あるいは全身疾患、さらに精神身体医学面からの検索、治療も必要とされています。

慢性特異性唾液腺炎

結核、梅毒、放線菌によるものがあるが、いずれもまれです。

流行性耳下腺炎

mumps virusの感染による疾患で、一般に流行性に生じます。感染は多くは唾液の飛沫によりますが、直接接触によるものもあります。一度罹患すれば免疫を得られます。 1) 臨床症状
 小児に好発します。病変は耳下腺に現れることが多く、顎下腺も侵されます。また、唾液腺以外に性腺、膵、甲状腺、涙腺などにも病変が生じることがあります。前駆症状として、発熱、悪寒、全身倦怠感、頭痛などを訴えます。耳下腺は一般に両側性に侵され、有痛性に著しく腫脹し、いわゆる"おたふくかぜ"ともよばれます。唾液腺の腫脹は1週間ぐらい続き、その後完全に治癒します。

Sjogren症候群

乾燥性角結膜炎、口腔乾燥などの乾燥症状を主徴とし、これにリウマチ性関節炎など多種多様の臨床症状および免疫血清学的異常が高頻度に認められる全身性疾患です。病因として自己免疫機序が考えられています。

1) 臨床症状
 眼および口腔の乾燥症状と関節症状などの膠原病症状が相前後して出現する症状で、女性に多くみられます。

2) 診断
 診断基準については諸説ありますが、乾操性角結膜炎(Schirmer test、 Rose-Bengal染色、fluorescein染色法による証明)、口腔乾操(口腔所見、唾液分泌量測定、唾影法などによる証明)、リウマチ性関節炎(アメリカリウマチ協会の診断基準)など膠原病症状のうち2つ以上の証明、さらに組織学的所見および免疫血清学的所見などにより、総合的に判定します。

3) 口腔症状に対する治療法
 唾影像などにより早期に発見し、唾液分泌刺激療法などにより唾液分泌の促進をはかり、口腔常在菌による二次感染を予防することが重要とされます。進行例では対症的に人工唾液などを使用し、口腔機能の改善、口腔粘膜の保護に努めます。

Mikulicz病

涙腺と唾液腺が無痛性対称性に腫脹をきたす、原因不明のまれな疾患です。1892年にMikuliczによって最初に報告されて以来、類似した臨床症状を示す症例が報告されてきましたが、これらのうち、白血病、悪性リンパ腫、結核など原因病変の明らかなものをMikulicz症候群、原因不明のものをMikulicz病とよびわけるようになりました。

病理組織学的には、腺実質の広範な破壊、リンパ性細胞の浸潤増生、島状上皮組織の出現であり、 Sjogren症候群の組織所見と酷似しています。このことから、 Mikulicz病とSjogren症候群が本質的に同種の病変で、Sjogren症候群では病変が系統的に現れているのに対して、Mikulicz病では部分的に出現していると考えている人もいます。

しかしながら、全身症状は別としても、眼、唾液腺所見でも臨床的にはその腫脹の程度、乾燥症状、唾影像所見などSjogren症候群とは明らかに差がみられます。