北海道大学歯学部口腔診断内科
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口腔診断内科

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のう胞

定義

のう胞とは、顎骨あるいは軟組織内において、病的に形成された流動体の内容をもち、それ自身の固有の壁をもっている球状ののう状物を指します。口腔に発生するのう胞の壁は、その内面が上皮細胞によって被覆されている上皮性のう胞epithelial cystが多いのが特徴的です。

のう胞を形成する疾患としてはエナメル上皮腫がありますが、これは腫瘍であり、またそれ自身の固有の壁をもたない膿瘍、あるいは骨空洞などは、のう胞とは明らかに区別されなければなりません。

分類

口腔に発生するのう胞には、顎骨内に発生する顎のう胞と、軟組織に発生するのう胞とがあります。

顎のう胞および顎骨内に発生するのう胞性疾患

発生由来から、歯原性のう胞、顔裂性のう胞、鼻口蓋のう胞、その他ののう胞およびのう胞性疾患に分類されます。

歯原性のう胞は、歯胚あるいは歯の疾患に関連して生ずるのう胞で、炎症性のう胞には歯根のう胞、歯周のう胞、また、発育性のう胞には含歯性のう胞、原始性のう胞があり、そのほかに石灰化歯原性のう胞があります。
もっともしばしばみられるのが歯根のう胞ですが、これは歯性感染症の原因歯の根尖部病巣内にのう胞が形成される炎症性のう胞で、根尖部を含んでのう胞が形成されます。

発育性のう胞は、発生時期によって種々の形態を示し、含歯性のう胞と無歯性の原始性のう胞とがあるが、埋伏歯の歯冠の周囲に形成される単胞性の含歯性のう胞がもっとも多くみられます。
原始性のう胞は、その程度の差はありますが、上皮が角化性変化を示し、歯原性角化のう胞ともよばれています。しかし、極めて稀なケースですが、顎骨内に発生する類皮のう胞、類表皮のう胞との鑑別は困難で、その分類についてはいまだ一定の見解は得られていません。

顔面およぴ口腔を形成する胎生期の諸突起の融合部に残存した上皮から発生する顔裂性のう胞は、主として上顎の前歯部に発生しますが、歯原性のう胞に比してその発生頻度は多くありません。
また、鼻口蓋管の遺残による鼻口蓋のう胞は、その発生部位によって切歯管のう胞、口蓋乳頭のう胞とよばれています。

その他ののう胞としては、いわゆる術後性頬部のう胞がありますが、来院時にはほとんどが歯性上顎洞炎などの化膿性炎症を合併しています。
のう胞性疾患としては、単純性骨のう胞(外ます性骨のう胞、出血性骨のう胞、孤在性のう胞)、脈瘤性骨のう胞などがありますが、それ自身の固有ののう胞壁はなく、顎のう胞とは区別されるものです。静止性骨空洞は、X線写真ではのう胞様の骨透過像を示しますが、のう胞ではありません。

口腔軟組織に発生するのう胞

もっとも頻度の多いものは唾液腺に由来する粘液のう胞ですが、唾液腺の損傷により流出した唾液を囲むように肉芽組織が増殖し、これが線維化してのう胞壁を形成したもので、停滞のう胞ともいわれています。

このほか、外胚葉の迷入による類皮のう胞、類表皮のう胞、鰓のう胞、甲状舌管のう胞、顔裂性のう胞である鼻歯槽のう胞などがあります。

顎のう胞に共通する臨床経過

顎のう胞は、膨脹性の発育を示し徐々に増大するので、のう胞の小さい初期の間はほとんど自覚症状はなく経過します。のう胞が増大するにつれて骨膨隆をきたし、隣接する歯および組織に対しても影響を及ぼすようになります。

隣接歯に対しては、萌出異常、位置異常、動揺などを起こし、咬合異常をきたすようになります。また、隣接する諸組織にも影響を及ぼし、膨脹性発育により大きくなると、上顎では鼻腔底、上顎洞底、眼窩底を押し上げ、骨吸収により骨性隔壁が消失する場合もあります。疼痛は一般的にはみられませんが、神経を圧迫し、疼痛あるいは知覚麻痺を生ずることもあります。

のう胞の増大により、その表面をおおう骨皮質が菲薄になると羊皮紙様感を触知し、さらに骨質の一部が消失すると波動を触れるようになります。この時期になると、のう胞は急に増大するので顔貌の変化が目立つようになり、自覚あるいは他人から指摘されるようになります。このようになると、顎骨は相当広範囲に吸収されており、X線写真では境界明瞭な骨透過像が認められます。波動を触れる場合には、穿刺によりのう胞の特徴を示す内容物が得られます。
一般的には、経過中に感染により化膿性炎を合併し。瘻孔を形成することが多くみられます。

顎のう胞

顎骨内に発生するのう胞に対しては、基本となる治療法として摘出術、開窓法があり、さらに必要に応じて反復処置が行われます。治療にあたっては。ただのう胞を摘出するということにとらわれずに、患者の年齢、のう胞の部位、大きさ、隣接器官との関連、のう胞の性質などを十分考慮し、できるだけ顎骨を保存し、口腔の形態的、機能的障害を少なくするように、症例に即した治療法が行われなければなりません。

粘液のう胞

粘液のう胞は、導管の損傷により唾液が周囲組織中に流出し、これを囲むように肉芽組織が増殖し、線維化によりのう胞壁を形成したもので、異物あるいは炎症などによる導管の拡張の結果生じたと思われる例はあまりありません。
粘液瘤あるいは停滞のう胞ともよばれ、これらのなかでとくに口腔底に生じた大きなのう胞をガマ腫といいます。

好発部位は粘膜下の小唾液腺のあるところで、とくに下口唇に多く、このほかに口底部、舌、頬粘膜にもみられます。
口底部は舌下腺を含む小唾液腺由来のものがみられます。

年齢的にはあらゆる年代にみられますが、10~20歳代に多くみられます。一般に粘膜面に盛り上がって、波動性のある軟らかい膨隆として認められます。粘膜下にみられる場合には青味がかった半透明の色調を示します。内容は無色透明な粘稠性の液体です。

口底部の小唾液腺あるいは舌下腺に由来する大きなものは、ガマの喉頭嚢に似ているので、ガマ腫と呼ばれます。一般に片側性で、単胞性ですが、まれには多胞性のこともあります。大きいものでは舌が挙上され、またオトガイ下部あるいは顎下部にも膨隆をきたすものもみられます。類皮のう胞および類表皮のう胞の場合には、口底の正中部にみられ、のう胞は弾力性のある軟らかい腫瘤として触れ、内容も異なるためガマ腫との鑑別は容易です。
また、顎下腺の腺体内にのう胞を生ずることがありますが非常に稀です。

治療法としては、小さい場合には全摘出を行います。再発を繰り返す場合には関連する唾液腺を含めて摘出しますが、最近では凍結外科療法が行われています。しかし、大きい場合には摘出は困難で、膨隆部の粘膜をのう胞壁とともに切除して口腔に開放し、内容液を排出させ、創面が閉鎖しないように周囲の粘膜の創縁をのう胞壁に縫合する方法が採られています。