北海道大学歯学部口腔診断内科
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口腔診断内科

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口腔粘膜疾患

口腔粘膜疾患

口腔粘膜は、空洞器官です。口腔の表面を被覆し、体表面として生体の防衛機構の重要な役割を果たしています。

口腔粘膜の特徴は、同じように体表面を被覆する皮膚と比較すると、その組織学的樟造は単純で、病変は単調な反応様式を示すものが多くみられます。したがって、たとえば潰瘍という一つの症状の表現形式に対しても多病困性です。ことが多く、粘膜疾患を形態的に分類することは非常に難しいといわれています。また、これに加えて、病因が明らかでなく、根本的な治療ができないので、対症療法を行わざるをえない場合が多いのが現状です。このような場合には、安静を保ち、栄養を十分にとり、生体の抵抗力をたかめる基礎的療法とともに慎重な経過観察が大切と考えられます。

口腔粘膜病変には、
①口腔だけにみられる病変
②皮膚疾患と関連のある病変
③全身性疾患の一つの症状として現れる病変
④先天性形態異常で、とくに生理的障害を示さないもの
などがあります。

皮膚疾患と関連のある口腔粘膜病変は種々ありますが、扁平苔癬のように、同一疾患名でも皮膚と口腔粘膜では病変の現れ方がまったく異なるもの、またベーチェット病や天疱瘡のように、皮膚と粘膜では発症の時期を異にするものがあるので留意しなければなりません。
口腔固有の病変か、全身性疾患の一つの症状として口腔に出現した病変かを鑑別することはきわめて大切なことです。舌の萎縮、口腔乾操症、出血性素因などのように全身性疾患の一つの症状として現れる病変は、全身性疾患を示唆しています。このため、適切な対応ができるためにはこれらの全身性疾患に対する基本的理群が必要であり、口腔の健康管理を通して全身の健康管理に関与しています。歯科医にとっては、とくに口腔粘膜病変が重篤な全身疾患の初期症状です。このため、その原疾患の発見に対する責任は非常に大きいと考えられます。

一般に高年齢、全身衰弱などの場合には、口腔粘膜の再生力が低下して萎縮が起こります。口腔粘膜で特徴的なのは舌の萎縮で、糸状乳頭は次第に低くなり、ついには消失し、平らな暗赤色の表面を呈するようになります。このように舌の糸状乳頭は、局所および全身状態によって非常に鋭敏に影響を受け、一過性に変化しますが、これは種々の原因により舌に現れる一つの症状です。

したがって、このような病変は局所に限局した病変とは限らず、全身性疾患の一つの症状として口腔に現れる場合もあります。ので、必ず全身性疾患に対する検査が必要と考えられます。

これら舌の糸状乳頭の萎縮により赤い平らな舌の症状を示す原疾患としては、 Plum-ma-Vinson症候群、慢性の肝疾患、ビタミンB2欠乏症、ペラグラ、 Sjogren症候群などがあります。また、舌の変化とともに口腔乾燥症も、種々の疾患、障害などの要因により、口腔に一症状として出現するので留意しなければなりません。
舌の糸状乳頭が萎縮する場合には舌苔を欠きますが、これとは逆に熱性疾患や急性感染症などの場合には、糸状乳頭の上皮は肥厚し、さらに食渣、微生物などによって影響され、異常な舌苔がみられます。
原疾患が考えられる場合には、その発見と治療が必要です。

アフタ

アフタとは、粘膜における円形ないし楕円形の、大きさ5mmぐらいの境界明瞭な偽膜性潰瘍です。
潰瘍の周囲には紅暈を有し、表面には白色ないし黄色の偽膜が付着しています。このようにアフタは小円形潰瘍の症状名で、同じ症状を示しても多病因性で、とくに慢性再発性アフタとBehcet病のアフタは、臨床的にも病理組織学的にも鑑別ができないので留意しなければならなりません。

また、口内炎の症状を伴うものと伴わないものがありますが、アフタを主症状とする慢性再発性アフタ、Behcet病の口腔内における一症状としてのアフタ、他部に病巣があって細菌の播種によって生ずる孤立性アフタなどは、口内炎の症状を伴わないのが特徴的です。

慢性再発性アフタ

家族性にみられ、遺伝的要因が考えられています。しかし原因は明らかでなく、一般的に神経質の人に多く、小児にはみられません。年齢的には、20~30歳代に多く、また女性のほうが多いといわれています。1個ないし数個のアフタが周期的に、あるいは不定期に発生します。
頻繁に再発する場合もあり、年に2~3回のこともあります。また一つのものが終るころ、また次のものが出て切れ目なく続くなど、その出方はいろいろです。

好発部位は、口唇粘膜、舌、頬粘膜などで、赤唇、皮膚に生ずることはなく、ふつう全身症状を伴いません。症状としては、はじめは自覚性の低い違和感がし、ついで限局性の腫脹感を覚えます。このような症状を示す小さな限局性の発赤を示す斑状の病変は、速やかに壊死に陥り、径5mmくらいの円形潰瘍を生じ、潰瘍面には黄白色の苔を形成し、その周囲には紅暈が認められるようになります。はじめの3~4日は激痛、とくに強い接触痛がありますが次第に軽減し、潰瘍は1週間から10日くらいで徐々に治癒に向かい、瘢痕は残さないで治癒するのが一般的です。

Behcet病

日本、地中海沿岸、中近東などに多くみられる疾患で、いわゆる難病の一つです。
口腔粘膜、皮膚、外陰部、眼に病変が反復して出現し、ときには関節炎症状、消化器症状、神経系症状などの病変を伴う全身性の疾患です。男女間に大きな差はないが、失明などの重篤な症状は圧倒的に男性に多く、年齢的には20~30歳くらいまでが多いです。

口腔粘膜の症状としては、再発性アフタの形で出現します。本症には必発で、初発症状です。場合が多く、他の症状が出現するまでは慢性再発性アフタと区別することができません。外陰部の症状としては、男性では陰嚢、亀頭、女性では大小陰唇、膣前庭に1個ないし数個の有痛性の境界明瞭な潰瘍を生じます。多くは数週で治癒しますが、再発性で、陰嚢の潰瘍や女子の陰門潰瘍に口腔粘膜のアフタを伴えば、Behcet病が疑われます。

皮膚の病変としては、主として下肢、上肢まれに躯幹に生ずる結節性紅斑、あります。いは、皮下にみられる血栓性静脈炎が特徴的です。結節性紅斑は、鶏卵大くらいまでの境界鮮明な淡紅色の斑で、硬結をふれ、圧痛があります。
数日で消退する場合が多いですが、皮疹は場所を変えて再発します。ときには色素の沈着を残します。また、静脈注射の採血部位に、血栓性静脈炎を生ずることがあります。

眼症状としては、虹彩毛様体炎および網膜脈絡炎があり、本症の診断のきめ手となります。発作を繰り返すうちに視力が次第に低下し、網膜出血、硝子体混濁、緑内障を継発して失明します。

症状の発現順序は、口腔粘膜、皮膚、外陰部、眼の順がもっとも多く、各症状は再発を繰り返し慢性に経過し、男性では失明する場合が少なくありません。一般的に女性では更年期ごろから、男性では失明すると症状の再発はほとんどみられなくなります。

病因は明らかでなく、ステロイド系抗炎症剤や免疫抑制剤などが用いられますが、根本的な治療法は現在のところありません。鑑別診断として、多型滲出性紅板症候群、Reiter病があります。

多形滲出性紅板症候群(皮膚・粘膜・眼症候群)

多形滲出性紅斑は、滲出性紅斑が四肢の関節周囲に生ずる反応性皮膚疾患で、定型的な本症では粘膜は侵されることはありません。これに対し。粘膜も侵される場合には急性経過をとり、人体開口部に全身症状を伴います。

口腔粘膜、限瞼結膜、鼻粘膜、外陰部、肛門などにびらんを発生させ、さらに皮疹として紅斑、丘疹、水疱などを生ずる非定型的な滲出性紅斑がみられます。種々の臨床像を呈するので、その病変の現れ方によって、皮膚口内炎、多開口部びらん性外胚葉症、Stevens-Johnson病などの名称が使われています。
これらは一括して、多型滲出性紅板症候群、あるいは皮膚・粘膜・眼症候群ともよばれています。

単純性疱疹(口唇癌疱)

単純庖疹ウイルスによる感染症で、比較的若い人に好発し、頻度の高い疾患で、再発性です。再発の誘因としては、感冒、精神的ストレス、月経などがあります。
症状としては、皮膚・粘膜移行部、口角部などに集簇的に発生する小水疱が特徴的です。小水疱は次第に混濁、小膿胞となり、破れるとぴらん面を形成し、7~10日で紅斑、褐色の色素沈着を残して治癒します。

疱疹性歯肉口内炎

アフタ性口内炎ともいわれ。単純疱疹ウイルスによる初感染病変と考えられています。6歳くらいまでの小児に生じ、成人ではまれです。
潜伏期間は7~14日で、発熱とともに発病します。口唇粘膜、舌、歯肉などの口腔の前方部に症状がみられ、アフタ様潰瘍を多発し、同時に口内炎を伴います。口臭が強く、疼痛のため食事がとれなくなることが多いです。全体の経過は2週間くらいで、ときには眼、外陰部などに症状がみられることがあります。

帯状疱疹

帯状疱疹ウイルス感染により、発熱などの全身症状を伴い、脳および脊髄神経支配領域にほぼ一致して、片側性に、帯状に集簇する小水疱が発生します。同部の神経痛様疼痛が特徴的です。小水疱はまもなく混濁し、破れるとぴらん面を形成し、易出血性です。その後、局所症状は乾操し、痂皮形成の傾向がみられ、痂皮が脱落すると褐色の色素沈着を残して治療します。

三叉神経の第Ⅱ枝であり、上顎神経領域に発生するときは、片側性に下眼瞼。頬部および上口唇の皮膚に小水疱が集簇して発生するとともに、口蓋、頬粘膜にも小水疱が発生し、すぐにびらん面を形成します。同時に顎下リンパ節は有痛性に腫脹し、3~4週で治癒するのが一般的ですがその後も三叉神経痛様疼痛を長く残す場合もあります。

Hunt症候群は、膝状神経節の知覚支配領域に発生するもので、耳部の帯状疱疹、顔面神経麻痺、味覚異常などがみられます。口陸では軟口蓋、舌根部が範囲に含まれます。
治療法としては、有効なものはなく、自然の経過で治癒します。二次的感染症に対しては抗生物質を使用し、口腔をきれいにし、栄養を十分にとり、全身状態の改善をはかります。神経痛様疼痛に対しては、対症的な治療を行います。