北海道大学歯学部口腔診断内科
北海道大学歯学部
口腔診断内科

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神経疾患

神経疾患

口腔領域には、三叉神経および顔面神経が分布していますが、これらの神経の障害によって現れる症状としては神経痛、麻痔、そして痙攣があります。

三叉神経痛

三叉神経痛には、原因が明らかでない特発性(真性major)のものと、原因が明瞭ないわゆる症候性(仮性minor)のものとがあります。

特発性三叉神経痛

原因は不明ですが、三叉神経自体に発症要素があり、壮年以降の高齢者に多くみられる症状です。主として発作性疼痛で、突発的に起こることもありますが、寒冷刺激あるいは談話、洗面、咀嚼などの刺激によって誘発されることが多いです。
激痛が発作性に起こることが特徴的で、自覚的には疼痛が歯から起こったように感じ、健全歯に疼痛を訴えることも多く報告されています。

末梢部から求心性に激痛が現れ、これが間歇的に反復します。このような発作は、初期には激痛の持続時間は短く瞬間的であり、その後は完全に痛みは消失し、なんの症状もみられなくなります。しかし次第に疼痛発作の間隔は短縮し、回数が増加するとともに激痛の持続時間は長くなります。このため、疼痛発作に対する不安を持ち、その動機となる談話や食事などを嫌悪するようになり、精神的、肉体的に消耗してしまいます。
一般には片側性、第Ⅱ枝または第Ⅲ枝、ときには両者にみられることもありますが、第Ⅲ枝に起こることが多いです。年齢別では高齢者に多く、ほとんどが40歳以上です。
疼痛発作は、日中に起こることが多く、ふつうは就眠中には発現しません。また顔面あるいは口腔の特定部位を指で触れる、冷気に晒されるなどの刺数が加わると、必ず疼痛を誘発する、いわゆる発痛帯をもっている場合が多いとされています。三叉神経の各枝が骨の孔を出る部をValleixの圧痛点といいますが、異常のある領域の圧痛点を圧迫すると、ときとして疼痛があります。
自覚的には歯から起こった疼痛のように感ずるので、症候性の場合と鑑別するためには、局所の状態を十分に精査することが必要で、まったく関係のない歯が次々と抜去されることがないように十分に注意しなければなりません。

治療法としては、原因が不明のために対症療法が主となります。
薬物療法として多くの治療法が行われているが、適切で確実な治療法はありません。鎮痛剤は一時的効果のあるものもあるが、三叉神経痛に対してはほとんど無効とされています。抗痙攣剤(Tegretal)は、三叉神経痛に対しても有効ですが、使用を中止すると再発するものが多数です。このように薬物療法の治療効果には限界があり、副作用などに問題があるため、使用にあたっては十分な注意が必要です。
神経ブロック療法は、正確にブロックされた場合には、その支配領域は知覚麻酔により、痺れた感じになりますが、ある期間、疼痛発作は消失します。

症候性三叉神経痛

周囲組織の器質的変化によって起こるもので、症候性、仮性、続発性、および歯性三叉神経痛などの名称があります。
この場合には特発性三叉神経痛とは異なり、種々の原因による器質的変化に伴って現れる一つの症状であり、このため原因を除去すれば、神経痛様疼痛はただちに治癒することが特徴的です。
原因としては、歯および顎骨疾患によるものが多く、歯性感染症、下顎智歯周囲炎、埋伏歯、腐骨などがありますが、その他外傷、腫瘍などに由来するものも存在します。
一般に発作性疼痛の程度は真性のものに比べると軽度であり、持続時間が長く、特発性のように疼痛が完全に消失することはなく、誘発帯も存在しません。年齢的にはあらゆる年代にみられ、若年者にもしばしば認められます。また三叉神経領域以外にも同時に疼痛が起こることもあり、原因により疼痛も多様で、それに付随する種々の症状がみられます。

三叉神経痙攣

主として三叉神経の運動枝の刺激状態として、咀嚼筋に痙攣が発症します。
悪寒戦慄、三叉神経痛の発作などの場合に反射的に起こる局所的な間代性痙攣と、ヒステリー、てんかん、破傷風などの全身性痙攣の部分症状として現れるものとがあります。
全身性痙攣の場合には強直性痙攣により、咬筋、側頭筋部に触れると硬く収縮しており、他動的にも開口不能の状態となります。
治療としては原因の発見、除去をはかり、また発作時には麻酔が効果的です。

顔面神経痙攣

顔面神経の支配領域の一部の筋に、短時間の間代性痙攣として現れることが多いです。
顔面チックともよばれ、眼瞼にみられることがもっとも多く、しきりにまばたきをするようになりますが、自分の意志では止めることができません。口輪筋、頬筋などにもみられ、ときには顔面半側全体に及ぶこともあります。
眼瞼の強直性痙攣の場合には、上下の限瞼は開かなくなります。
原因の除去が第一であるが、原因の明らかでない場合が多く、対症的には鎮痛剤、鎮静剤の投与、理学療法などが行われます。

顔面神経麻痺

中枢性と末梢性の二つに大別されますが、末梢性のことが多く、Bell麻痺ともよばれています。
中枢性の場合には脳溢血、脳腫瘍、脳炎などの脳内の病変によって顔面神経核より中枢側の神経が障害され、他の種々の症状とともに顔面神経麻痺の症状が現れます。
これに対し、末梢性の場合には、顔面神経核より末梢側の神経が障害され、顔面神経麻痺が唯一の症状として現れます。一般に性別では女性、年齢別では中年以降に多いです。
末梢性の場合の原因としては、感冒、耳下腺部の外傷、手術による切断、損傷、感染症、腫瘍、寒冷刺激などがあります。とくに顔面神経は、末梢では解剖学的に表在性に存在するため、寒冷刺激により麻痺を起こす場合が多いとされています。
症状としては、ほとんどが片側性で、突発性に起こる場合と、腫脹、疼痛などの前駆症状を伴う場合とがあります。また症状は、障害された部位によって異なりますが、必ず額面に左右非対称性が現れ、前顔部の皺がなくなり、眼裂閉鎖が不能となり、しいて閉鎖させようとすると、眼球は上方に回転します(Bell現象)。麻酔側の頬部は弛緩し、鼻唇溝は消失します。口角の下垂がみられ、口裂の閉鎖が不能となるため、飲物や唾液が洩れ、口笛が吹けなくなり、咀嚼、構音などの機能障害をきたします。
原因、障害された部位、麻痺の程度、神経線維の変性の程度、壊死の有無などにより治療法は異なり、予後は大きく左右されます。
原因の発見、除去が第一ですが、末梢性の外傷、炎症、寒冷刺激などによるもので、神経線維が切断、あるいは壊死が起こっていないものは治りやすいとされています。軽いものでは2~3週、ふつうは1~2カ月くらいで治癒するものが多く、悪性腫瘍によるものはもちろん、原疾患である腫瘍に対する治療が必要ですが、顔面神経麻痺は悪性腫瘍の診断のうえにも重要な症状です。
保存療法としては、神経の変性を防ぐため、ただちに浮腫を除去するもの、循環促進剤、神経賦活剤などの薬物療法を行います。とくに発病後2週間くらいまでは症状が進行するので、よく説明をし、この間は安静にし、できるだけ寒冷などの局所刺激を避けるようにします。

三叉神経麻痺

三叉神経の支配領域における知覚や運動に麻痺を生ずると種々の症状が現れます。
末梢性に現れるものは、外傷や手術によって三叉神経が損傷あるいは切断された場合にみられるものがほとんどですが、ときには歯や顎骨の疾患が原因になることもあります。
第Ⅰ枝では。前頭部皮膚下知覚麻痺、第Ⅱ枝では、顔面上半部の皮膚、上顎の歯髄、頬粘膜・第Ⅲ枝では、顔面の下半分の皮膚、下顎の歯髄、粘膜部に知覚麻痺を生じます。
第Ⅲ枝ではさらに咀嚼筋に運動麻痺がおこるため、咀嚼困難、味覚障害が発現します。
治療としては原因除去が第一であり、対症療法としては薬物療法、理学療法、罨法などが試みられますが、効果は期待できない場合が多いとされています。