北海道大学歯学部口腔診断内科
北海道大学歯学部
口腔診断内科

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口腔診断内科について

北川善政
口腔診断内科北海道大学大学院歯学研究科
口腔診断内科学教室教授
北川善政


急速な高齢化社会の到来、科学・医療の進歩に伴って、慢性疾患を有する高齢者が増加し、歯科領域においても疾病構造や患者のニーズも多様化しています。

歯科医は人間のQOLに直結する大変重要な領域を扱っており、口腔病変について正しい知識のみならず全身の病態の診方や医学的知識も要求されるようになってきています。「口腔を通して全身状態を診、全人的視野に立って口腔の健康にあたる」ことが社会から歯科に期待されています。歯科患者を口腔だけでなく全身各部の評価を行った上で、口腔全体の病変に対応する必要があり、これに対応するための基礎になるのが口腔内科学Oral Medicineの教育と考えています。

欧米においてOral medicineは歯科医学における一つの分野として確立され、特に医科のなかでは歯科との主要な連携分野として認知されています。しかし日本では口腔内科学は未だ定着していない名称です。現在、日本の歯科医学教授要綱には口腔内科学という授業科目はありませんが、北大では、平成10年から口腔内科学の講義を開始しており、従来の口腔外科学の中で内科学的分野を口腔診断学・口腔内科学として当講座が担当しています。口腔内科学を4年生に90分授業を1年間47コマ行い、内科、外科などの医学講義は5-6年生に実施しています。

内科学の本質は、疾患を大局的な立場で全身的、系統的に観察し、内科的診断法、検査法を用いて診断、状態を把握し、病気の原因を究明して、観血的処置にたよらずに、主に身体の自然治癒力に加えて薬物療法、理学療法、運動療法などの内科的療法により疾患を治療することにあります。それによって健康体として患者を社会に復帰させることを使命とするものであり、「論理」が重要な学問として発展してきました。
一方、外科学は状態の把握(診断)と結果への対応が求められ、外科的処置が主で手技、技術が重要な学問です。このような観点から歯学教育を歴史的に振り返ってみると「歯科は外科的アプローチが主体となっており、歯学教育では技術教育が中心で、内科的思考がおろそかになっていた」と言わざるを得ません。口腔内科学が歯学教育体系の中に組み込まれていないということは、わが国の歯学教育の大きな欠陥であると考えます。

今後は、様々な口腔病変の状態を把握し、原因を究明する内科的思考法の重要性を学部教育期に伝える必要があると考えられます。口腔癌を例にとってみると、以前は手術が必須であったが、近年の放射線動注化学療法により機能温存が可能になり、内科的治療で対応できる症例も増えてきています。「口腔内科とは口腔という局所だけでなく大局的立場に立って全身的背景から口腔疾患を診断し、外科的治療を用いないで口腔疾患の治療にあたる学問」と定義できます。

北川善政
範囲は以下の3つが大きな柱となります。

1. 全身疾患と口腔病変との関連を診断
2. 口腔内科学的疾患(口腔粘膜、炎症、顎関節、唾液腺疾患など)の原因の探究と、診断、予防、治療
3. 歯科治療時の全身状態の評価。

口腔内科学は日本の歯科医学の重要な役割を担う確立した一分野になるべき学問です。