4.お口の管理について

一般に口唇・口蓋裂のあるお子さん達はむし歯になりやすいと言われています。
むし歯になる原因は様々ですが、その理由として、歯のはえてくる場所である顎にもわれめがありますから歯列不正(歯の萌えてくる位置が悪くなる)を起こしやすいうえに、手術の瘢痕により口腔前庭が狭くなり、自浄作用もはたらきづらく、歯垢(こう)が付着しやすくなります。このような条件から歯磨きがしづらく、磨き残しも多くなります。また、成長に合わせたお口の手術の際に、せっかく気をつけていた甘いものの制限が崩れてしまったり…。結果としてむし歯になりやすい環境になってしまうようです。
 低年齢でむし歯になった場合歯科治療に協力が得られず、治療が非常に困難になります。また、将来矯正治療を行う場合には、お口の管理が重要なポイントとなります。しかし、なんといっても健やかな成長にお口の管理は欠かすことはできません。むし歯予防の実際は日常生活と非常に密着していますので、保護者の方のちょっとした気遣いが、健康な口腔の成長を促します。次にお口の管理のポイントを述べます。
1)観察
  口の中ではこれからおよそ20年間(成人するまで)にわたり顎は発達し、歯は6才頃より乳歯から永久歯へと変わっていきます。少なくとも7〜9歳頃まではお母さんがお子さんのお口の中をチェックしていかなければなりません。歯や歯茎だけではなく噛み合わせ、唇と歯の関係、頬と歯の関係などよく観察してください。まずお子さんのお口の状態をいつも観察する習慣を持つことが大切です。
2)歯磨き
  歯磨きはお口の中の細菌数を減らすために行います。汚れ(歯垢)のたまりやすいところは決まっていますので、なんとなく行うのではなく、お子さんの成長過程に合わせて、ポイントを知り、効果的に行いましょう。(ポイントの個所に関しては受診の際ご相談下さい。)
  歯磨きの効果は歯ブラシの毛先が汚れのたまっているところにあたっているかどうかです。お子さんの歯の「歯と歯の間」、「歯と歯茎の間」、「噛み合わせの溝」にきちんと歯ブラシの毛先があたっているか観察しましょう。
保護者の方が行う寝かせ磨きには左手を使っての唇や頬のよけ方が大事なポイントになります。
 また歯磨きに一生懸命のあまり必要以上の力で磨き、かえってお子さんを歯磨き嫌いにさせるケースもあるようです。いやがる時期もありますが、「根負けせず」にすすめていきましょう。
  お子さんにも積極的に歯ブラシを持たせ、小さいうちから歯磨きを習慣づけましょう。楽しい雰囲気と共に、お口の中を自分で見て、歯ブラシでしっかり歯を磨く体験をさせましょう。歯ブラシの選択等についてはお近くのスタッフにご相談下さい。また、歯ブラシをくわえて転び、事故になることもあります。要注意です。
 口蓋裂のあるお子さんはうがいが苦手ですが、担当医、言葉の先生とも相談のうえ練習していきましょう。うがいはお口の管理の上でも重要な行動です。
3)甘味コントロール
 甘いものは人間にとって、エネルギーとして、精神的な安らぎとして、とても大切なものです。しかし、必要以上にとったり、与え方を間違うとお口の管理に大きな影響を与えます。栄養バランスと共に年齢に合った与え方に気をつけましょう。特に、お口の中に常に何か入っているような「だらだら食い」は大敵です。「量」を気をつけることも大切ですが、むし歯予防のためには、お口の中を唾液で中和する時間を作る「与え方」が大切です。一般的に、アメやガム、チョコレートなどは与え方に気をつけますが、案外見逃してしまうのが、ジュース、イオンスポーツ飲料などの飲み物です。飲み物でおなかを膨らませてしまい食事に影響するお子さんもいます。病気の時や楽しみにしているお出かけの時などは別として、与え方に十分注意しましょう。
  むし歯にとって気をつけなければならないのは「ショ糖」ですが、同じ糖分でもむし歯になりづらい糖分として、キシリトールやソルビトールなどがあり、このような抗う蝕 (むし歯になりづらい)作用を持った糖分を含んだ食品を上手に使うことも大切です。
4)哺乳ビン齲蝕
 断乳のタイミングを逃した上に、哺乳ビンの中に甘い飲み物を入れて飲む習慣のあるお子さんはほとんどが「哺乳瓶う蝕」と呼ばれる高度のむし歯になってしまいます。1歳半でむし歯を作ってしまってはかわいそうです。十分気をつけましょう。
5)咀嚼(そしゃく)
  人間にとって噛むことは大切な行為です。授乳、離乳食、普通食と進んでいきますが、最近の傾向として柔らかい食品を好み固いものを食べなくなったといわれています。普通食になったら、様々な食品をよく噛んで食べる習慣をつけましょう。よく噛むとお口にとって大切な唾液(つば)もたくさん出て、お口の環境を整えるのに大きな役割を果たします。もちろんむし歯予防にもなります。
6)フッ素の応用
  歯磨きや甘味コントロールの他に上手に利用したいのがフッ素です。フッ素は外国では上水道にいれたり、錠剤で飲んだりとむし歯予防に積極的に応用され効果をあげています。日本では、これまで乳幼児の保健所でフッ素塗布と保健指導がむし歯の増加を防いできたと言われています。このようなフッ素をうまく活用するために、フッ素入りの歯磨き粉を使ったり、フッ素洗口法(フッ素液でのうがい)も有効とされています。うがいができるようになったら、歯磨き粉の裏の表示を確認して購入し、ご家庭でのむし歯予防に役立ててください。また、当院ではフッ素塗布も行っていますので担当医と相談のうえ合わせてご活用下さい。
7)定期検診
 最後に歯科は定期検診が大切です。現在むし歯も歯周病も細菌感染であることがわかっています。お子さんのお口の健康だけではなく、保護者の皆さんのお口の管理もまた大切なこととなります。長い通院となりますが、根気よく、よろしくお願いします。
 以上ポイントを述べさせていただきましたが、詳しいことについては受診の際、お気軽にお申し出下さい。