Iwase, Mineyo

ラット臼歯形態形成におけるＰ-カドヘリンと細胞骨格系蛋白質の相互関係とその役割

　　　　　　　　　　　　　岩瀬峰代　　佐々昭三

　　　　　　　　　神奈川歯科大学歯学部口腔組織学教室

　　　　　　　　　　　神奈川県横須賀市稲岡町８２

【要約】

　ラット臼歯の歯冠形態の決定機構を解明するために，歯胚の発生に伴うカルシウム依存性の接着分子であるP-カドヘリンと，細胞骨格系蛋白質（α-アクチニン，F-アクチン）の局在の経時的変化を検討した。さらにTriton X-100処理を行い，細胞骨格系蛋白質と結合しているP-カドヘリンを検出し，その局在の変化を検討した。
　発生の早い段階の歯胚において歯頸彎曲部および裂溝部の内エナメル上皮では近位端付近に、その他の部位の内エナメル上皮では細胞周囲に，P-カドヘリンの陽性反応が観察できた。この歯胚をTriton X-100による処理を行うと大部分のP-カドヘリンは消失した。これらの部位の内エナメル上皮は細胞分裂能を有しており，細胞骨格系蛋白質の陽性反応も観察できないことから，消失したP-カドヘリンは細胞間のゆるい結合に関与することが示唆された。
　発生の進んだ段階の歯胚において，内エナメル上皮が分化を開始した細胞では近位端付近に，エナメル芽細胞では近位端と遠位端付近に局在するP-カドヘリンは，Triton X-100処理後でも残存する。さらに，α-アクチニンやF-アクチンも同部位に局在していることから，残存するP-カドヘリンはアドへレンス・ジャンクションを形成し，強固な結合に関与することが示唆された。
　このように歯胚の発生と内エナメル上皮の分化段階に応じて結合様式が変化することから，エナメル器の部位によって，またその構成細胞においても近位端と遠位端では結合力の強さに差が生じる。この様な結合力の部位差が内エナメル上皮の屈曲の方向性を決定し，内エナメル上皮の歯乳頭側への陥入が惹起され，進行すると考えられる。さらに，内エナメル上皮がエナメル芽細胞に分化すると複合結合装置によりエナメル芽細胞相互の機械的な結合力が維持され歯冠形態が決定されていく。
　以上の結果から，細胞分裂と細胞間接着分子および細胞骨格系蛋白質の相互関係の変化が，
歯冠の形態形成に大きな役割を果していることが示唆された。

【目的】

　組織，器官の形態形成において，細胞はその数を増加しながら，それらの配置をダイナミックに変化させている。そしてその期間に細胞は分化し，その機能を発現するようになる。ラット臼歯歯胚においても，エナメル器の内エナメル上皮がエナメル芽細胞に分化し，歯乳頭側の細胞が象牙芽細胞に分化していく鐘状期に将来の歯冠の形が決定されることが観察されている1）。歯冠形態の形成機構については，従来内エナメル上皮の外エナメル上皮側への突出は星状網の陥凹によって決定されるか，あるいは部位によって内エナメル上皮の細胞分裂の終了時期に差があり，引き続いて行われる分化段階にも部位差が生じることから決定されると考えられている2）。しかしこの説明では星状網の陥凹はどのような機構でおこるのか，あるいはどのように内エナメル上皮が屈曲を開始するのかという疑問が生じる。
　そこで，著者は歯冠形態の決定とはエナメル器の内エナメル上皮の屈曲による咬頭と裂溝の位置の確定を意味することから，一枚のシート状の内エナメル上皮がどのような機構によって褶状に屈曲していくかという問題として捉えることにした。
　シート状に接着した上皮細胞が管や袋をつくる原腸陥入や，神経管形成などの形態形成運動において，カドヘリンは細胞の選択的接着性を担い，それに呼応した発現パターンを示す4,5,6）ことが知られている。カドヘリンがアドレンス・ジャンクション7）と呼ばれる細胞間結合装置に濃縮して存在し，アクチンとカドヘリンを結び付けるアドレンス・ジャンクションの構造も明らかになってきていることから8），シート状に接着した上皮細胞では，アクチン線維束とカドヘリンの共同作業により，単層上皮細胞列が彎曲すると考えられている9）。また，培養細胞を非イオン性界面活性剤で処理すると，細胞表面にあるカドヘリン分子は，アクチンを含む細胞骨格とともに抽出されずに残ることが知れていた10）。しかし，さらにカドヘリン分子の構造についての詳細な報告がなされ，これらによればカドヘリンとF-アクチンが結合している場合，カドヘリンはカテニンと複合体を形成することが不可欠であり，これにより強固な結合が形成されると考えられている11,12,13,14）。一方，ニワトリ胚の心臓の観察から，カドヘリンがアドヘレンス・ジャンクション以外にも点状に発現しており、比較的ゆるい細胞間結合に関与しているとの報告もある15）。
　したがって，カドヘリンが関与する細胞間接着にはその結合状態の異なったものが存在し，形態形成運動において役割を分担していると考えられるが，その作用機構についてはまだ十分に解明されていない。
　そこで，今回著者らは歯胚の歯冠形態の決定機構におけるカドヘリンの役割を解明するために，下記の事項について蛍光抗体法を用いて観察し検討した。１．細胞分化に伴うP-カドヘリン局在の経時的変化とBrdUの取り込みを指標とした細胞分裂能と関係　２．歯胚の発生段階に伴うP-カドヘリンと細胞骨格系蛋白質の局在の変化　３．Triton Ｘ-100処理による細胞骨格系蛋白質結合P-カドヘリンの検出。

【材料および方法】

　麻酔下（ネンブタール，5mg/10g b.w.）にて妊娠20日目のｳｨｽﾀｰ系ﾗｯﾄの子宮を取り出し，胎盤付近より子宮内の胎仔にBrdU(1.2mg/10g b.w.）を投与した。生後0日より生後4日までのウィスター系ラット（雄及び雌）にはBrdU(1.2mg/10g b.w.）の皮下注射を行った。１時間30分後，胎仔及び新生仔を麻酔下（ネンブタール，5mg/10g b.w.）にて断頭し，下顎より第１及び第２臼歯歯胚を摘出した。下顎第１、第２臼歯を液体窒素にて凍結，クリオスタットにて厚さ約6μm凍結切片を作製し，風乾後メチルアルコール(15min）及びアセトン（5min）（-20℃）にて固定した。その中の数枚は塩酸処理した後に抗BrdU抗体（PROGEN社）を１次抗体として，残りの数枚は抗P-カドヘリン抗体（宝酒造株式会社）及び抗α-アクチニン抗体（BIOHIT社）を１次抗体として用い，FITC標識抗マウスIgG抗体を２次抗体とした間接蛍光抗体法による染色を行った。なお，二重染色にはF-アクチン
に特異的に結合するローダミン・ファロイジン（モレキュラー・プローブ社）を用いた。
　また，Nelson13）らの方法を用いて，凍結切片を0.05％Triton X-100処理（3～5 min）後，2
％パラフォルムアルデヒドにて固定し，抗P-カドヘリンモノクローナル抗体よる染色を行い，細胞骨格系蛋白質に結合しているP-カドヘリンの検出を行った。なお，モノクローナル抗体のコントロールには全マウス血清を用いた。
　BrdU，P-カドヘリン，F-アクチンの陽性反応の変化は蛍光顕微鏡（オリンパス社）および
ビデオカメラ，画像改善装置（HAMAMATHU）を用いて撮影し，観察を行った。

【結果】

１．細胞分化に伴うP-カドヘリン陽性反応の経時的変化とBrdUの取り込みを指標とした
細胞分裂能と関係　

同一の歯胚内で内エナメル上皮からエナメル芽細胞が観察できる歯頸彎曲部において，先端部では，内エナメル上皮の細胞周囲全体にP-カドヘリンの陽性反応が見られ，分化が進むと内エナメル上皮の近位端に陽性反応が強く現れた。エナメル芽細胞では近位端と遠位端に限局して観察できた（Fig.1-a）。早い分化段階の内エナメル上皮では細胞分裂の指標であるBrdUの陽性反応が観察できた（Fig.1-b）。
　裂溝部においても細胞分化段階の違いによってP-カドヘリン陽性反応が異なっており，BrdUの陽性反応が観察できる裂溝底部では，P-カドヘリンの陽性反応は細胞周囲にも見られたが，BrdUの陽性反応が観察できないエナメル芽細胞では近位端と遠位端にのみ限局して観察できた（Figs.1-c,d）。

２．歯胚の発生に伴うP-カドヘリンと細胞骨格系蛋白質の局在の変化

　発生段階の早い胎生20日第2臼歯歯胚においては，P-カドヘリンは歯頸彎曲部や裂溝部では内エナメル上皮の近位端に，その他の部位の内エナメル上皮では細胞周囲に陽性反応が多く見られる（Fig.2-a）。しかし，α-アクチニンは弱い，F-アクチンはやや弱い陽性反応が内エナメル上皮の近位端付近に観察できるだけだった（Fig.2-b,c）。この発生段階の歯胚の外エナメル上皮においては細胞周囲にP-カドヘリン，F-アクチンとα-アクチニンの陽性反応が認められた（Fig.3-a,c,d）。
　一方，生後４日目第1臼歯歯胚の分泌期エナメル芽細胞では，P-カドヘリンの陽性反応は細胞の遠位端および近位端付近に限局しており（Fig.2-d），α-アクチニンとF-アクチンの強い陽性反応の発現部位と一致していた（Fig.2-e,f）。この発生段階の歯胚の外エナメル上皮においてはP-カドヘリン，F-アクチンとα-アクチニンの陽性反応はほとんど認められない（Fig.4-a,c,d）。

３．Triton X-100　処理による細胞骨格系蛋白質結合P-カドヘリンの検出

（発生段階によってP-カドヘリンの局在における細胞骨格系蛋白質の局在が異なることか
ら，P-カドヘリンと細胞骨格系蛋白質との結合状態を調べるためにTriton X-100処理を行
った。）

　胎生20日目の第2臼歯歯胚において歯頸彎曲部や裂溝部の内エナメル上皮の近位端付近や，その他の部位の内エナメル上皮の細胞周囲に強い陽性反応を示していたP-カドヘリンは，Triton X-100処理によりほとんど消失した（Fig.3-a,b）。しかし，F-アクチンとα-アクチニンの陽性反応が観察できる裂溝付近の内エナメル上皮の近位端にわずかに残存していた（Fig.3-b,c,d）。
　生後４日第１臼歯歯胚の歯頸彎曲部先端の内エナメル上皮でみられたP-カドヘリンの陽性反応はTriton X-100処理により観察できなくなった（Fig.4-a,b）。しかし，分化の進んだ内エナメル上皮の近位端，およびエナメル芽細胞の近位端と遠位端付近におけるF-アクチンとα-アクチニンの存在部位に限局してP-カドヘリン陽性反応が残存していた（Figs.4-b,c,d）。但し，α-アクチニンの陽性反応のみが観察できる歯頸彎曲部先端の歯乳頭との境界部では，P-カドヘリンは残存していなかった(Figs.4-b,d）。

【考察】

１．内エナメル上皮にはP-カドヘリンの関与するゆるい結合が存在する

　発生の早い段階の歯胚では歯頸彎曲部や裂溝部の内エナメル上皮の近位端付近やその他の部位の内エナメル上皮の細胞周囲に，発生の進んだ歯胚では歯頸彎曲部先端の内エナメル上皮の細胞周囲に観察できたP-カドヘリンの陽性反応はTriton X-100処理を施すことによってほとんど消失した。この消失したP-カドヘリンは細胞骨格系蛋白質と結合しているのではないと考えられる6,10,11,13）。したがって，細胞骨格系蛋白質と結合していないP-カドヘリンは，アドヘレンス・ジャンクションのような強固な結合ではなく、比較的ゆるい結合に関与するものと考えられる14）。また，この部位の内エナメル上皮は細胞分裂能を示すBrdUの陽性反応がみられることから細胞間の結合はかなり流動的な状態であると思われる。

２．内エナメル上皮の細胞分化に伴ってアドへレンス・ジャンクションが形成される

　Triton X-100処理後においても陽性反応が観察できるP-カドヘリンはどの発生段階においてもα-アクチニンの陽性反応の発現部位と一致しており、同時にF-アクチンの陽性反応も観察できることから、この部位のP-カドヘリンはアドヘレンス・ジャンクションの構成蛋白質として、強固な結合を形作っている11,13）ことが歯胚においても示唆された。この強固な結合に関与するP-カドヘリンは分化が進んだ内エナメル上皮の近位端あるいはエナメル芽細胞の近位端及び遠位端に存在する。また，エナメル芽細胞に分化すると細胞間のアドへレンス・ジャンクションはタイト・ジャンクション，デスモソ－ムと共に複合結合装置を形成することは電顕的研究7,16）によって報告されている。したがって，細胞分化に伴って内エナメル上皮ならびにエナメル芽細胞の結合様式が変化することをが示唆された。

３．細胞間接着分子と細胞骨格系蛋白質は歯冠の形態形成に大きな役割を果す

　発生の早い段階の歯胚のエナメル器においてP-カドヘリンの陽性反応が観察できる。特に歯頸彎曲部の内エナメル上皮の近位端付近ではP-カドヘリンがより多く発現している。したがって，ゆるい結合ではあるが近位端付近と遠位端付近では結合力の強さに差が生じる。その結果として，内エナメル上皮は比較的結合力の強い細胞の近位端側に屈曲し始める。また，将来裂溝となる部位においてもP-カドヘリンの発現によって，内エナメル上皮の近位端付近と遠位端付近では結合力の強さに差が生じ，裂溝部を中心に近位端側に屈曲し始める。また，その他の部位ではP-カドヘリンが細胞表面全体に発現していることから結合力に部位差が生じないため内エナメル上皮の屈曲は起こらないと思われる。
　内エナメル上皮の細胞分化が進むとアドヘレンス・ジャンクションが最初に内エナメル上皮の近位端側に形成される。このことにより，さらに内エナメル上皮の近位端付近と遠位端付近では結合力の強さの差が増加することになる。さらに分化すると細胞の遠位端付近にもアドヘレンス・ジャンクションが形成される。分泌期エナメル芽細胞では細胞分裂も終わり，複合結合装置が細胞の近位端と遠位端の両側に形成され，アドヘレンス・ジャンクションにおけるF-アクチンの太い束（タ－ミナル・ウェッブ）17,18）も発達して，細胞相互の機械的な結合力が維持される。
　この一連の細胞分化過程は裂溝の細胞分裂の特に活発な部位を中心として順次進んでいくために，結合力も相対的に変化し，結合力の弱い裂溝底部において内エナメル上皮の歯乳頭側への屈曲が進むことになる。なお，歯胚の発生が進むと外エナメル上皮は細胞自体低立方化して小さくなり1），P-カドヘリン，F-アクチン，α-アクチニンともに陽性反応が観察できないことから結合力も弱くなると考えられる。したがって，歯頸彎曲部の先端部の内エナメル上皮は外エナメル上皮に牽引されることなく歯乳頭側に向かってに細胞分裂を続けることができるものと思われる。
　以上のことから，内エナメル上皮の細胞分裂終了時期の部位差と，細胞分化に伴う細胞間接着分子と細胞骨格系蛋白質との相互関係の変化が，歯冠の形態形成に大きな役割を果していることが示唆された。　　　

【文献】

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【図の説明】

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Figs.1-a～d　
エナメル芽細胞の分化に伴うP-カドヘリンの陽性反応の変化。生後3日第1臼歯歯胚 (DO: dental organ , DP: dental papilla, bar: 20μ�）

Fig.1-a　
歯頸彎曲部のP-カドヘリンの陽性反応を示す。先端部では細胞周囲全体にその陽性反応が見られる（矢印）が，分化期エナメル芽細胞では近位端付近に比較的強い陽性反応が観察できる（矢頭）。

Fig.1-b　
BrdUの陽性反応を示す（Fig.1-aと同部位）。先端部の内エナメル上皮（矢印），分化期エナメル芽細胞（矢頭）ともにBrdUの陽性反応が観察できる。

Fig.1-c　
裂溝部のP-カドヘリンの陽性反応を示す。裂溝底部において分化期エナメル芽細胞の近位端と遠位端付近に比較的強い陽性反応が観察できる（矢頭）。

Fig.1-d　
BrdUの陽性反応を示す（Fig.1-cと同部位）。裂溝底部の分化期エナメル芽細胞（矢頭）にBrdUの陽性反応が観察できる。

Figs.2　
歯胚の発生段階に伴うP-カドヘリンと細胞骨格系蛋白質の局在の変化

Figs.2-a～c　
胎生20日第2臼歯歯胚 (DO: dental organ , DP: dental papilla, bar: 20μ�）

Fig.2-a　
P-カドヘリンの陽性反応を示す。内エナメル上皮の近位端付近（矢頭）遠位端付近（矢印）を含む細胞全体に比較的強い陽性反応が観察できる。歯頸彎曲部と裂溝部の内エナメル上皮では近位端付近に多く局在している。外エナメル上皮の細胞周囲にも

Fig.2-b 　
α-アクチニンの陽性反応を示す。内エナメル上皮の近位端（矢頭）にわずかに陽性反応が観察できるが，遠位端（矢印）には陽性反応は観察できない。

Fig.2-c　
F-アクチンの陽性反応を示す。内エナメル上皮の近位端矢頭）にわずかに陽性反応が観察できるが，遠位端（矢印）には陽性反応はほとんど観察できない。

Figs.2-d～f　
生後4日の第1臼歯歯胚の分泌期エナメル芽細胞（AB: ameloblast, bar: 20μ�）

Fig.2-d　
P-カドヘリンの陽性反応を示す。エナメル芽細胞の近位端付近（矢頭）と遠位端付近（矢印）の細胞周囲に比較的強い陽性反応が観察できる。　

Fig.2-e　
α-アクチニンの陽性反応を示す。エナメル芽細胞の近位端付近（矢頭）と遠位端付近（矢印）の細胞周囲に強い陽性反応が観察できる。

Fig.2-f　
F-アクチンの陽性反応を示す。エナメル芽細胞の近位端付近（矢頭）と遠位端付近（矢印）の細胞周囲に強い陽性反応が観察できる。

Figs.3,4　
TritonX-100処理による細胞骨格系蛋白質結合P-カドヘリンの検出および歯胚発生段階に伴うP-カドヘリンと細胞骨格系蛋白質の陽性反応の変化 (DO: dental organ , DP: dental papilla, bar: 20μ�）　

Fig.3-a～d　
胎生20日第2臼歯歯胚

Fig.3-a　
P-カドヘリンの陽性反応を示す（メタノ－ル・アセトン固定）。歯頸彎曲部（矢印）および裂溝部付近（矢頭）では，内エナメル上皮の近位端付近に強い陽性反応が見られる。それ以外の部位では細胞周囲に陽性反応が見られる。なお，外エナメル上皮（＊）にもその陽性反応が見られる。

Fig.3-b　
TritonX-100処理後のP-カドヘリンの陽性反応を示す（パラフォルムアルデヒド固定）。歯頸彎曲部（矢印）の陽性反応が消失し，裂溝部の内エナメル上皮の近位端（矢頭）にわずかに残存している。

Fig.3-c　
F-アクチンの陽性反応を示す。歯頸彎曲部（矢印）と裂溝部（矢頭）の内エナメル上皮の近位端に陽性反応が観察できる。なお，外エナメル上皮（＊）にもその陽性反応が見られる。

Fig.3-d 　
α-アクチニンの陽性反応を示す。歯頸彎曲部（矢印）では陽性反応がほとんど見られない。裂溝部の内エナメル上皮の近位端（矢頭）に陽性反応が観察できる。なお，外エナメル上皮（＊）にもその陽性反応がわずかに見られる。

Figs.4-a～d　
生後4日の第1臼歯歯胚の歯頸彎曲部

Fig.4-a　
P-カドヘリンの陽性反応を示す（メタノ－ル・アセトン固定）。歯頸彎曲部の先端部（矢印）では，細胞周囲全体に陽性反応が見られる。エナメル芽細胞（＊）の近位端付近と遠位端付近に比較的強い陽性反応が観察できる。外エナメル上皮にはその陽性反応はほとんど認められない（矢頭）。

Fig.4-b　
TritonX-100処理後のP-カドヘリンの陽性反応を示す（パラフォルムアルデヒド固定）。歯頸彎曲部の先端部（矢印）の陽性反応は消失したが，エナメル芽細胞（＊）の近位端付近と遠位端付近の陽性反応は残存している。

Fig.4-c　
F-アクチンの陽性反応を示す。歯頸彎曲部の先端部（矢印）はほとんど陽性反応はみられないが，エナメル芽細胞（＊）の近位端付近と遠位端付近に比較的強い陽性反応が観察できる。外エナメル上皮にはその陽性反応はほとんど認められない（矢頭）。

Fig.4-d 　
α-アクチニンの陽性反応を示す。歯頸彎曲部の先端部（矢印）において遠位端にのみ陽性反応が認められる。エナメル芽細胞（＊）の近位端付近と遠位端付近においては強い陽性反応が観察できる。外エナメル上皮にはその陽性反応はほとんど認められない（矢頭）。

Abstract

Interrelation between P-cadherin and cytoskeleton, and its role in morphogenesis of rat molars

Mineyo Iwase and Shozo Sasa

Department of Oral Histology,
Kanagawa Dental College,
Yokosuka, Kanagawa, 238 Japan

【 abstract 】
Immunohistochemical analysis was performed to a system to examine the tooth-crown morphogenesis of rat molars. We examined the interrelation between localization of P-cadherin ( cell adhesion molecule ） and that of cytoskeleton in the development of the tooth germ. We detected P-cadherin which was connected with cytoskeleton by using Triton X-100 treatment, and examined changes in localization.
In the tooth germ at an early stage of development, P- cadherin was localized at the proximal end of the inner enamel epithelium of the cervical loop and cleft. In the inner enamel epithelium of other parts, P-cadherin was localized in the cell circumference. A large part of the localization of P-cadherin in these tooth germ was not observed after Triton X-100 treatment. In the tooth germ mentioned above, the inner enamel epithelium had cell division ability, and intense positive reaction of cytoskeleton was not observed. These findings suggested that P-cadherin which disappeared by Triton X-100 treatment participated in loose adhesion between the cells.
In the tooth germ of more progressed phase development, a positive reaction of P- cadherin was observed at the proximal end in the differentiation stage ameloblasts, and was observed at the proximal end and distal end in the secretory stage ameloblast. The positive reaction of these P-cadherin remained after Triton X-100 treatment. α-Actinin and F-actin were observed in the same location as P-cadherin. This suggested that P-cadherin which remained there formed an adherence junction and participated in a strong adhesion.
In this way, the type of cell adhesion was changed with the differentiation of tooth germ and ameloblast. The change of adhesion form in the enamel organ causes a difference in the adhesive strength in each location. The difference of this adhesive strength settles in the direction to which the inner enamel epithelium bends, and then the folding of inner enamel epithelium seems to occur. Mutual mechanical avidity is maintained by a junctional complex, and crown form will be settled when it starts secretion of dental enamel furthermore.
Therefore, the ability of cell division and changing of interrelation between cell adhesion molecule and cytoskeleton has a major role in the morphogenesis of the crown.

Key words: tooth-crown, rat molar, morphogenesis, cadherin, F-actin.