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矯正用歯科材料の開発

研究概要

当教室では物質や材料を通して矯正歯科治療の発展や革新へ貢献することを目的とする研究も行っています。この取り組みの基盤となるのが、機能を持った材料の設計・製造・特性評価を経て実用化を目指すというプロセス、すなわち「ものづくり」です。1999年に「ものづくり基盤技術振興基本法」が公布されて以降、ものづくりという言葉をよく耳にするようになりました。このことは、単に我が国の基幹産業である製造業の発展に法律の支えが加わったからというばかりではなく、ものづくりが日本の史観や日本人の精神性に響くものであったからなのかもしれません。もちろん、ものづくりも新原理の探求や新素材の開発も世界中の様々な分野の研究者・技術者が鎬を削る研究・技術領域です。そうした中で、私たちは歯科医師だからこそ気づけるニーズを理解しているという強みをもって研究に取り組んでいます。誇らしい日本の固有文化に根付く材料科学に、そして、よりよい未来への寄与に興味と志を抱いてくれる皆さんをお待ちしています。

研究テーマ

1.複合材料による透明な矯正歯科治療用ワイヤーの開発

高い成形加工性を特徴とするポリメチルメタク リレート(PMMA)に生体親和性ガラスによる強化構造を持たせた複合材料を用い、既存の矯正 ブラケットに適用できる0.4-0.5 mm径の透明 ワイヤーの開発に成功しています。しかし、残 念ながらガラス繊維強化の場合、治療の一部で 必要となるワイヤーの屈曲ができません。そこ で、この欠点を補うために、高強度の高分子繊 維を用いる高分子/高分子複合材料の開発に取 り組んでいます。この場合、PMMA母材にも強 さの向上が求められます。既にPMMAをナノ複 合材料化するという発想で強化構造を持たせる ことに成功しています。

複合材料による透明な矯正歯科治療用ワイヤーの開発

2.生分解性プラスチックのナノ複合材料による矯正歯科用インプラントの開発

近年の矯正歯科臨床では、矯正歯科用インプラント(日本での正式名称:歯科矯正用アンカースクリュー)を用いる治療の重要性も認識されるようになりました。現在日本で薬事承認を得ている歯科矯正用アンカースクリューはどれもチタン製で、治療上の必要がなくなったところで撤去されます。私たちは生体内においても分解される生分解性プラスチックのうちポリ-L-乳酸に 着目し、これを層状ケイ酸塩(上図)を用いたナノ複合材料(下写真)とすることで強さと安全性と生分解性とを併せ持つ歯科矯正用アンカースクリューの開発を行っています。既にナノ複合化技術の確立に成功しており、スクリュー形状への成形に鋭意取り組んでいます。

層状ケイ酸塩
ナノ複合材料

3.蛍光特性を持つ(見たいときにだけ見える)矯正歯科用接着材料の開発

矯正ブラケットを外した後、歯の表面に残った接着剤を除去するわけですが、歯を傷つけることなく透明な接着剤を取りきるのはなかなかに難儀です。かといって、目立つ色の接着剤を使うわけにもいきません。そこで、普段は透明なのに削り落とす処置のときだけ見えるようになる接着剤を開発しました。利用したのは蛍光という材料特性です。私たちが用いたユウロピウムの3価イオンは、近紫外線を照射すると鮮やかな赤色の蛍光を発します。可視光において紫と赤はもっとも離れた色領域ですから、照射する光と発光の色が重ならないという点で開発目的に好都合だったわけです。現在までに、蛍光強度を高めるために酸化亜鉛や酸化イットリウムの結晶にユウロピウムイオンを取り込む方法やユウロピウム錯体を利用する方法で実験を行い、それぞれに良好な成果が得られています。

矯正歯科用接着材料の開発
矯正歯科用接着材料の開発

4.近く発表予定の研究(まだ内緒にしておきたいこと)

接着に関するとても楽しみな研究が始動しました。より興味深い結果を公表できるようになるまで、もう少しお待ちください。