北海道大学歯学部口腔診断内科
北海道大学歯学部
口腔診断内科

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舌痛症

舌のヒリヒリ、ピリピリ

最近、舌の表面が、「ひりひり」「ぴりぴり」した痛みがでてお困りの方が増えています。歯科や口腔外科、耳鼻科、内科、消化器科などいろいろな科を受診されても、「異常ないから心配ないです」「気のせいです」としかいわれないことが多いようです。

従来、専門家が診察して患者さんが痛いと訴える舌の部位に異常が認められない場合は、「舌痛症」と診断され、心因性と考えられてきました。しかし、最近の研究では、舌痛を訴える患者さんのなかに別の要因が関係している場合があることがわかってきました。

その1つ目は、口の中のカビ(真菌のカンジダ)です。カビといわれると、びっくりされる方も多いと思いますが実は、カビは口腔内の常在菌で健康な方にも唾液1mlあたり、10~100個存在しています。全身の抵抗力が著しく落ちたり、抗生剤やステロイド剤の長期間投与、口腔乾燥、義歯の取り扱いの不備などの状況をともなうと、カビが増殖してきて口腔カンジダ症が発症します。

症状

症状はおもに、①口腔粘膜の表面に拭き取ると除去可能な白苔が存在しその下面の粘膜が赤くただれている場合、②白苔がなく表面の粘膜が赤くなり、舌であれば表面の凹凸が消えて平坦になる場合があります。②の場合、舌の「ヒリヒリ」「ぴりぴり」とした痛みが生じる場合が多く、心因性の舌痛症との鑑別が問題になります。

カンジダ症の場合は、食事や会話など舌を動かして刺激が加わる場合に痛みが増強し、特に熱いものや、味の濃い刺激物は痛くて摂れなくなります。一方、心因性の舌痛症では逆にこのような時は痛みを忘れている場合が多いのが特徴になります。また、心因性の舌痛証では日内変動といって午前中よりも午後や夕方、夜にかけて痛みが増強する場合が多いのですが、カンジダ症ではこのような変動はありません。他に注意したいのは、カンジダ症では両側の口角に難治性のびらんができやすいことです。

また、別の要因として生体内の微量金属であるFe(鉄)、Zn(亜鉛)やビタミンB12が欠乏して特殊な舌炎になることで舌の表面が荒れやすくなり、舌の痛みを生じやすくなります。カンジダ症は細菌の培養検査、微量金属やビタミンの不足は血液検査を行えば結果が分かります。

治療

カンジダ菌が検出された場合は抗真菌剤の投与を、微量金属やビタミンの不足の場合はその物質を補充することで容易に症状は改善します。これらが該当しない場合、心因性と考えますが、心因性といってもきっかけは歯科治療が契機となった場合も多く、一時的な舌へのこだわりが長く続くことで知覚神経の回路が混線し、症状が固定化してきます。こうなると、いくら医者から「異常はないから心配はいらない」「癌ではない」といわれても症状は一向にとれません。

舌痛症の原因は未だ十分に解明されていませんが、最近は、「心因性」ではなく「特殊な神経痛」に近い病気で、痛みを感じる神経に障害が生じるためだと考えられています。舌そのものには異常がなくても舌の感覚神経の混戦が起こることで舌痛を生じるのです。現在、この状態にもっとも有効な治療法は抗うつ薬と考えられています。抗うつ薬といっても、うつに対しての効果ではなく、神経の情報をスムーズに伝達させる作用がありますので、前述したような特殊な神経痛に良く効くことがわかっています。

口腔内科を標榜している当科では、SSRI(パキシル、ルボックス、ジェイゾロフト)、SNRI(トレドミン、サインバルタ)、NaSSA(リフレックス)という新しい抗うつ薬や、以前から用いられている3環系抗うつ薬(トリプタノール)を積極的に投与することで、良好な成績をあげています。さらに、ある種の抗胃潰瘍剤も舌痛症に対して有効であることがわかってきました。また、これらの薬剤を飲みたくない方や、以前、服用して副作用が出た方などには、漢方薬も積極的に投与し、患者個々に、最適な投薬をするように心がけています。勿論、全ての舌痛症の患者さんに対し、これらの薬剤が効果を発揮するわけではありません。

しかし、当科の研究では、舌に痛みを発症してから当科へ来院するまでの期間が1年未満の場合と1年以上の場合では、1年未満の方が有意に薬の効果が高いことがわかりました。従って、舌の痛みを自覚した場合、できるだけ早期に当科のような専門機関に来院されて、検査を受けられることをお勧めします。

口腔内科を専門に診察する科は、国内ではまだ数えるだけしかありません。
遠慮せずにご相談ください。

舌痛を主訴で受信した患者の流れ

舌痛症と委縮性カンジダ症の鑑別

当科外来を受診した口腔カンジダ症の主訴を調べてみると、最も多かったのは舌痛で全体の約半数を占め、続いて味覚異常(14%)、口腔乾燥(11%)でした。また、舌の痛み(舌痛)を主訴に当科受診した患者の確定診断を検索したところ、舌痛症とカンジダ症が全体の8割を占めていました(両者の重複症例は約1割)。このように口腔カンジダ症は舌痛を訴えることが多いことから舌痛症との鑑別が重要になります。

一般的に舌痛症と萎縮性カンジダ症の鑑別点として有用な項目は、食事中の痛みの変化、疼痛の日内変動、舌以外の疼痛部位、痛みの性状、発症の契機、味覚異常などです。摂食時の痛みは舌痛症では軽減ないし、消失するのに対し、萎縮性カンジダ症では増悪し特に熱いもの、味の濃いもので顕著になります。また、日内変動は舌痛症では午前中よりも午後から夕方、夜にかけて痛みが増悪しますが、萎縮性カンジダ症では日内変動はなく、1日中持続します。

舌痛症と口腔カンジダ症の鑑別 舌痛症と萎縮性カンジダ症の鑑別